第5話 試験なんてつまらない

 帝都の裏路地には様々な飲食店が並んでいた。シュミットはエルザとともに一軒に入ると、窓際のテーブルで対面で座ると、お互いに種類の異なる肉料理を頼んで、待っている間に水臭いワインを飲んだ。ほとんど水ではないかとグラスをランプにかざして二杯目を注文した。

「内緒にしていたのは申し訳ないとは思わない」

「思わんのかい」

「来てから考えようとね」

 エルザは答えた。

「試験てのは何だ」

「わたしのときは十人稽古と言われている勝ち抜き戦をした」

「おまえもしたのか」

「やらせだよ。仲間には負けてくれと頼んどいたんだ。関係者以外もいたが友だちの友だちだよ」

「俺も頼むか。というか勝ち抜きとかするのか。魔法で?」

 肉の煮込み料理が運ばれてきて二人で食べた。途中から店は賑わいを見せて歓声が湧いた。

「送迎会だな」とエルザ。「いくつかの部隊が南西のイブタリウム国へ行く。交代だ。冬の前に」

「前線は大変なのか」

「いや。ブルグ家は力を蓄えているかもしれんが、まだ侵略してくるまでにはならんようだね」

「南東のボンブルと和解したと聞いたがどうなんだ」

「今のところな。互いにプレゼント交換して、これから軍の交流もやるらしいが。問題は魔法使いだ」

 エルザは肉を突き刺した。

「こちらは見せたくない。もちろんあちらは見たい。北のイセンの首都へも視察も済ませてあるようだ」

 戦争を終わらせたと言われる魔法はイセンの首都リュゼルで使われた。一瞬にして五十万人もの街を吹き飛ばした魔法の噂は、フルト帝国を攻めようとしていた各国の動きを止めた。イセンは降伏し、フルト帝国はイセンの他領を安堵した。これだけ戦争をしているフルトには他国まで統治する余裕がないのだ。

「俺、命狙われてるのか」

「どうかな。護衛はつけるようにしているらしいが。誘拐されることを恐れてる。だから帝都へと呼び戻すことにしたんだ」

「殿下の娘の家庭教師か。姫は少し使えるそうじゃないか」

「これまでの家庭教師が魔法学科教授のバルナド工爵だ」

「いたのか」

「心配するな。魔法大学の立ち上げに関わるし、教授へ出世した」

「魔法大学とかから家庭教師連れてくればいい。俺は遠慮する」

「牢獄だぞ」

「たまらん二択だな」

「そもそも戦後に暇乞いなんてしないで地位を……」

 シュミットは味気ないパンに肉の汁を染み込ませて聞いた。

「すまない。忘れてくれ」

「俺もアレを開発したとき、たくさんの人が死ぬことを考えなかったわけじゃない。でも引き換えに戦争が終わせられるんだと言い聞かせたんだ。現にイセンは降伏した」

「もう一度できるのか」

「できないな」

「技術的にか」

「技術的になら他の国でも開発はできるだろうな。気持ちだよ。俺は魔法使いをやめたいが、やめられない俺もいる。今すぐ決められることでもない。どうなるかわからん」

「だから引き受けたのか?」

「魔法に罪はない」肉汁を染み込ませたパンを口に入れた。「しかし試験があるとはな。筆記にしてくれ」

「それについては早いうちに資料を持ってくるよ。それとしばらく身辺には気をつけてくれ」

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