第4話 帰らせてください
翌日から数日、シュミットは宮廷に出向いて国王陛下と皇太子と別々に挨拶を終え、かつての帝国軍の指揮官で今は工部大学の学長とお茶を飲んで、工部大学魔法学科の教授たちと対談した。それぞれに同じような田舎暮らしの話をして、今回は大学にも軍にも戻らないということを話した末、同期で士爵号を持つグルイド士爵の屋敷で家庭教師試験の準備はできているのかと聞かれた。
「試験があるのか」
「貴様、何も知らんのか。だからのこのこと来たんだな。魔法使いの浮世離れは本当だな」
育ちの良い彼は、何をしても嫌味なところがない。村人風情がと言われ掴み合いのケンカをしてから付き合いが続いている。今は何でも許せる気になるから不思議だ。
「世の中には、前の戦争を魔法で終わらせたと言われるのが気に入らん奴らがいるんだ。要はおまえのことが嫌いな奴らだがな」
庭のテーブルでカップケーキを頬張ると、テニスをしている妻と義理の妹の下手さに呆れていた。
「何かあると思っていたが」
「何かあるわな。軍には魔法などに頼るなという連中がいる。宮廷も巻き込んでの話だぞ。なところに魔法学科が工部大から独立する話が出てきている。おまえは魔法大学に担ぎ上げられるぞ」
「国王陛下は?」
「魔法の力を見せつけられたのは敵だけじゃないさ。あれから陛下は魔法の研究に予算をつけている」
「田舎へ帰ろうかな」
「あの戦争の前後で魔法使いの地位は雲泥の差だ。おまえは自由に振る舞えんよ。田舎に帰るなんて言えば捕まる。帝都の警察はおまえを監視しているからな。で、試験は何をするんだ。決闘でもするのか」
「見えてきたよ。お姫様には魔法の才があるんだな」
「なるほどな。弟殿下が魔法使いの家系ならば次期国王の座も狙えるかもしれんしな。何にせよ、おまえは飼い殺される運命だ」
「世知辛いね」
「にしてもテニスボールがいくつあっても足らんな。拾わないと」
シュミットはコートの外に転がっている無数のボールで払う仕草をしてみせた。風がボールを一つのところへと集合して、二人の美人姉妹が驚きながらも笑っていた。
「試験に落ちればいい」
「簡単に言うな」
シュミットは近づいてくる姉妹に笑みで迎えながら答えた。
「力を出せば軍から睨まれ、落ちたら落ちたで魔法使いから叩かれるんだ。もうやだ。自由でいたい」
「嫉妬でもされてるの?」
士爵夫人が汗ばんだうなじにタオルで当てた。妹は同じような夫人と金髪だが短くしていた。シュミットは席を譲ろうとしたが、これから屋敷で水浴びをするからと離れた。妹は何度も振り向き、シュミットを見ては士爵夫人に何やら話していた。
「妹は工部大学の学生だよ」
「少し歳が離れてるのか」
「間に三人の軍人がいる」
「あ、そう」
「惚れられたな」
「まさか。こんなおっさんが惚れられるとはね」
「魔法を専攻している」
「ひとまず帰るわ。今回のコーディネートした奴と話すしかない」
「参謀本部にいるからいつでも訪ねてきてくれ。鎧着て来いよ」
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