第3話 決闘は話し合いで

 エルザが女だてらに隊長まで上り詰めたのは、ひとえに彼女の才能と努力の賜だが、剣術指南所に入ることができたのは、同じ村の出であるシュミットの口利きがあったからだった。もしなければ、彼女は村で飢えに苦しんでいるか、人減らしで街で娼婦として暮らしているかだ。だからというわけではないが、シュミットには恩を返さなければならないと考えている。ティヒ王子の娘メグミ嬢のお付を任されたとき、これならシュミットを呼び戻しやすいのではと閃いて、王子に相談したところ了承を得て、すぐに根回しまでしてくれた。根回しは政治的な判断も含んでいるだろうが、それでも牢獄に入れられることを思えば悪くない。

「エルザ、どこにいたの?」

 メグ姫は晩さん会のドレスを選んでいた。快活で人懐こい。生まれも育ちがいいと、エルザは自分ようにひねくれないものだと思った。

「シュミットが帝都に戻ってきたので殿下にご報告してまいりました」

「いつ会えるの」

「明日にでも」

「楽しみね。大戦を終わらせた英雄に会える。しかもわたしの家庭教師になるかもしれないのよね」

「メグ様次第です」

「どういうこと?まるでわたしがわざと落とそうとしてるみたい」

「たぶん魔法については教えてくれませんよ」

「なぜ?これでもわたしも魔法が使えるのよ。小さい頃から学んだんだもの。見れば教えてくれるわよ」

 わざと意地悪そうな顔をしてみせた。彼女の知識欲は尽きないし、社交性も行動力も抜群だ。この子が男に生まれなくてよかったと、ときどき王子が漏らしていた。次期国王として後継者として担ぎ上げようとする連中がいるのだ。

「今日は会えないの?」

 メグはシュミーズドレスの袖を左右違うものを結んでコーディネートしていた。黒い髪、黒い瞳、白い肌、膨らみかけた胸、細い指、どれもがお嬢様だが、性格が……

「会えるんなら行くわよ」

「勝手に出歩くのも。それにお疲れのようでしたから」

「疲れる?いくつなの?」

「わたしより十歳上ですね。確かなら三十歳くらいです」

「ということは……」

 戦争終結が五年前だから二十五歳のときに活躍していたということになる。戦後すぐ暇乞いを出して認められた。魔法の使いすぎで精神不安定になったと囁かれるが、実際は魔法開発に没頭しすぎたせいで結婚相手に浮気されたセンチメンタル静養である。二年も経つくらいから本人も適当に遊んで忘れたようだが。

「早く会いたいわ。見るくらいならいいんじゃない?」

「まず国王陛下にお会いしてからにしませんと」

「わたしからジイジに言えば文句ないわよね。公式でもないしい」

「すみません。決定ならお会いしてもいいんですが、彼がメグ様の家庭教師になる条件をつけられまして」

「わたしはつけてないわよ」

「カイム皇太子側から姫様の家庭教師ならば教授か準じるレベルでなければならないということで」

「また難癖なのね。エリザのときも言われたわよね。思い出したわ。ジィジの御前で十人稽古したのよ」

「そうでしたね。ところが今回は本人に知らせていません」

「は?どうして?」

「帝都に来ないからです」

「面倒な人ね」

「魔法使いですからね」

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