第9話 お師匠様と呼ばせて
「わかってやったのね」
「今回の家庭教師の件と試験を提案したのはあなたですね」
「ええ。弟殿下は魔法使いの家系なのよ。ちゃんとした教育があればと考えたの。遊んでるあなたに白羽の矢を立てた。わたしは試験のことまでは考えてないわ。こういうのは動き出せば止まらないものね」
「戦争も同じですよ」
「怒らせちゃったわね。このことあの人に話すの?」
グルイドは温めた紅茶を持ってきたので、シュミットはちょうど入れ替わることにした。
「貧血だよ。薬もいらん。少し休んでから何か食べれば平気だ。洞窟は俺とエルザの二人で行く。おまえは入口を監視しといてくれ。刺客に塞がれたくないからな。嫁さんとお姫様も守るんだぞ。お姫様がいなくなれば俺の就職もできなくなる」
テントを出る際、
「ありがとう」
と声をかけられた。
「エルザ、さっさと済ませる。誰か宝とやらを置いてきたんだ。ということは入れるということだ。ご丁寧に地図もくれてるしな」
「行こう!」とメグ。
「お姫様は待機だよ」
「どうして?洞窟探検なんてわくわくするわ。行かないでか」
「あんたに何かあると困るぞ」
「誰も困らないわ。皇位継承するわけでもないし。どうせどこかの国へ売られるように嫁ぐのよ」
「なるほどね」
シュミットはランプ石を持たせた杖に入るように命じた。平板な道が続いた後、
「そこ踏むなよ」
シュミットが後ろに言うと、案の定メグが踏んだ。外界へと通じる出入口が石で塞がれた。地響きにメグは緊張したのがわかる。エリザも満を持して短剣を抜いていた。
「ごめんね。ダメ?」
「ったく」
「シュミット、見えん」
エルザが言うので、リュックから出したランプに火打ち石で火をつけた。メグが魔法でつかないの?と尋ねてきたので、こっちの方が楽だからと答えた。何でもかんでも魔法でできるんなら、もっと魔法使いは多いだろうと言うと納得していた。
「エルザ、これは罠だな」
「確かに誰かいる」
「二人ともわかるの?」とメグ。
「帰るにしても岩が」
「斬れ」
「いくら師匠の命令でも聞けん」
「えっ」とメグ。「何で剣士のエリザの師匠が魔法使いなの」
エルザは深呼吸して、
「もう演技したくない!わたしは魔法使いシュミットの弟子よ!」
と叫んだ。
耳にキンッと来た。
「おまえなんて呼びたくない。村で捨て子同様のわたしを救ってくれたのは師匠なの!わたしがくじけそうになると浮かんできたのはシュミットなの!剣とか魔法とかどうでもいいのに!」
「エルザ」メグが制した。「ちょっと落ち着こうかしら。ね、もう少し静かに話さない?」
「耳痛っ……」
杖がクルクルしていた。
洞窟の底から土が焦げるような臭いがした。地面が揺れ、三人とも真っ逆さまに落ちた。メグとエルザは丸い結界に守られながらも崩れてくる岩に首をすくめた。そっと地底に着くと、しばらく地響きが済むのを待って、狭い側道へと逃げた。
「エルザ、おまえがバカでかい声出すからだ」
「シュミット、わたしは師匠と呼ばせてよ。もう演技したくなぁい!」
「好きにしろ」
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