同級生の女の子を交通事故から庇って異世界転生したけどその子と会えるようです
砂糖琉
交通事故
学校では仲がいい友達はいなくて挨拶を交わすぐらいの友達しかいない。厳密に言えば友達がいないのではなく親友がいない。
一応、中学の時に仲の良い幼馴染がいた——名前は
咲希はいつも友達の女の子と話している。そういえば最近は目すら合わなくなったな。
だけど最近そんな俺に唯一、挨拶だけではなく話しかけてくれる女の子が一人だけいた。
それはいつも長い黒髪をなびかせている女の子——
彼女はクラスの中心人物で誰にでも分け隔てなく接している。
俺が特別視されているわけではないのは分かっているが話しかけてもらえるだけで嬉しい。
今日も話せたら嬉しいな。
考えながらいつも通り学校までの道を歩いていると涼香さんの姿を見つける——スマホをいじって信号を待っている。
彼女は今一人だ。どうしよう、たまには自分から話しかけてみようかな……
信号が青になると涼香さんはスマホをしまい、前に歩き出す。
行ってしまう……俺は後ろから彼女を追う。
「涼香さん!」
そう呼ぶと涼香さんは振り向いて手を振ってくれる。
俺はそんな涼香さんに駆け寄ろうとすると信号は青にもかかわらず横からトラックが走ってくる。
何してるんだ!?
トラックの運転手はスマホをいじっていて涼香さんの存在に気づいていない。
それに涼香さんも俺の方を見ていてトラックの存在には気づいていない。
「あぶない!」
駆け寄っていた俺は急いで涼香さんを前に突き飛ばす。
物凄いブレーキ音が鳴り響いて俺はトラックに轢かれた。
意識が朦朧とする中、微かに声が聞こえる。
はっきりとは見えないが女の子が泣いている気がする。
「お願い……死なないで……」
良かった、涼香さんは助かったみたいだ。せっかく助かったのに泣かないでくれ。
女の子を守れて死ぬなんて男の本望だ。もう後悔なんて……ない。
そして意識が完全になくなり俺は死んだ。
——お主、まだ生きたいか?
なんだ? とうとう幻聴まで聞こえるようになった。
「幻聴じゃない。目を開けろ!」
目を開けるったって俺は死ん……
目を開けると真っ白な空間に長い髭を生やしたおじいさんが立っていた。
なんだここは? 夢? 違う、天国か?
「やっと目覚めたか」
「目覚めたって、さっき俺は永遠の眠りについたはず……」
「確かにお主は一度死んだ」
「一度?」
俺は確かトラックに轢かれて死んだはずだ。一度も何も即死のはず……
「お主の体は即死した。だがわしが何とか魂だけは助けたんじゃ」
「魂を助けた……?」
「そうじゃ。お主の一部始終を見ていた。わしは感動したぞ! 大切な人を守るために自らの命を犠牲にするとは!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 話の内容が理解できないんだけど……」
「つまり、一部始終を見ていたわしが感動してお主を助けたということじゃ」
「いや、何もつまりじゃないんだけど……えっと、まずあなたの名前は?」
「そうじゃな——紹介が遅れた。わしは神のゼウスじゃ」
神のゼウス……? こいつは何を意味の分からないことを言ってるんだ?
どうみてもサンタのコスプレをしたおじいさんじゃないか。
「コスプレとはなんだ! わしは正真正銘の神じゃ!」
「じゃあ……おじいさんが神ってことを証明してくれよ」
そうだ、こいつが神なら今すぐにでも証明できるはずだ。
「もしかしてお主、気づいてないのか?」
「気づいてないって何が……?」
「さっきからずっと心の声と会話しておるぞ?」
「え……?」
先程の会話を思い返してみると、おじいさんの言っている意味が分かった。俺はずっとこのおじいさんに心の声を読まれていた。
ということは……このおじいさんは本当に……
「ようやく信じてくれたか」
「マジか……」
でも俺はどうして神と話しているんだ……? やっぱりここは天国なのか?
「まあ、天国と思ってくれても構わんが、厳密に言えば天国はもっと遥か上空に存在する」
「なるほどな……それじゃあここは何の場所なんだ?」
「ここはー、わしにもよく分からん」
「分からないのかよ」
神って言っても、意外とポンコツなところがあるんだな……
「誰がポンコツじゃ」
「あっ……」
そうだ、そういえば心の中を読まれてるんだった。気を付けないと。
「それで、どうして俺はこんな所に連れてこられたんだ?」
「お主、異世界転生という言葉を知っておるか?」
「異世界転生ってラノベとかの?」
「そうじゃ、これからお主には異世界で生活してもらう」
異世界で生活……なるほど、だから初め『魂だけを助けた』と言ったのか。
今は驚くところなんだろうけど神と話せているせいか自分でもびっくりするほど落ち着いている。
「今から転生する世界は今までお主が過ごしていた世界とは違って、魔法やスキルが存在する。もちろん魔王や魔物も存在する」
「魔物……」
「そうじゃ、魔物は基本的に人を襲う生き物。生身の人間が戦えば即死するレベルじゃ。だから人間は魔法やスキルを使って魔物に対抗する」
「なるほどな……」
「お主にどんな魔法が使えるのかはこれからの頑張り次第で決まる。だが今回の転生に関してはわしの私情を挟んでおる。転生先で何か問題があってもそれは全てわしの責任だ」
「……つまりは何が言いたい?」
「お主に『コピー』のスキルを授けたい」
「別に……いいけど?」
スキルが増えるのはむしろ嬉しいことだろう。それにコピーって相当強いスキルじゃないのか……? どうして授ける側が低姿勢になるのか理解できない。
「だが、一つ条件がある——それは……転生した後もたくさんの人を救ってほしいんじゃ!」
なるほど、そういうことか……
つまり『コピー』のスキルを使って、涼香さんを助けた時みたいに色々な人を救えということか。
普通は悩むところだろうけど都合のいいことに涼香さんを庇った時、悪い気はしなかった。もっと色々な人を救いたいと思った。
「いいだろう——やってやる」
「本当か! 交渉成立じゃ! ——それだったら早速、転生の準備を始めるぞ!」
「ああ、分かったよ」
ウキウキしながらゼウスは転生の準備を始める。
「それと一応、コピーの説明をしておく」
「そうだな、頼む」
ゼウスは転生の準備をしながらもスキルの説明をする。
「まず初めにコピーのスキルは名前通り敵の攻撃を真似ることができる。だが、ただコピーしようとするだけじゃ技は発動しない」
技を真似るにも何か条件があるということか……
「コピーは……自分が一度受けた攻撃の技しか真似ることはできない」
「それって……強いのか?」
「うーん、正直言うと使いこなすのは相当難しい。何せ普通の人間が魔物の技をコピーしようとしても、その一回の攻撃で死んでしまう」
「そうだよな……」
「だがお主ならこのスキルを使いこなせると思うんじゃ! お主は前世で女の子を守って命を落とした。だから今世はこのスキルで敵からの攻撃を受けて、人々を守る……お主以外の適応者は他にいない!」
「なんだ、その滅茶苦茶な考え方は……」
でもゼウスの言いたいことも少しは分かる。
確かに涼香さんを救った時は彼女が助かってくれて本当に良かったと思った。人を救えるなら自分は幾ら傷ついてもいいと思った。まあそのせいで死んだけど……でもそう考えるとこのコピーのスキルは俺の性格に合っている、気がする。
上手く使わないとまた同じように死んでしまうからそこだけは気を付けないとな。
「よし、転生の準備が終わったぞ」
床に魔法陣のようなものが出ている。
「これに乗ればいいのか?」
「そうじゃ、これに乗ってしばらく待っているとお主は新しい世界に転生する」
「分かった」
魔法陣に乗ると、それは光り出す。
「色々教えてくれてありがとう」
「いいんじゃ、いいんじゃ。わしが勝手にやったことだから——それじゃあ」
「それじゃあ」
魔法陣の光は更に強くなり、その光は俺を包み込む。
「ああ、後、前世のお主が通っていた学校のクラスメイトがそっちに召喚される予定じゃから」
「分かった……って、え!? ちょ、ちょっと! 詳しく聞かせ……」
「健闘を祈っておる」
そして俺は異世界に転生した。
同級生の女の子を交通事故から庇って異世界転生したけどその子と会えるようです 砂糖琉 @satouryu
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