初めての村
歩き始めて三時間ほど経った。
道中、色々な魔物がいた。
スライムや牙が鋭い狼、オークなんかもいた。
スライムなら倒せそうだが狼やオークなんかは生身の人間が戦うと下手すれば死んでしまう。
まだ防具が無い状態だから戦うのは避けたい。
魔物を見つけたら全て見過ごして他の道を選ぼう。
身を潜めながら一時間ほど歩いているとようやく建物を見つける。
異世界に来て初めての建物だ。あれが何であれやっと見つけることができた。
ひと一人すら見ていなかったから正直、心が折れかけていた。
早速、建物の方へ向かう。
近づいてみるとその建物が小さい村ということに気がつく。
俺が求めていたでかい町ではなかったけど村を見つけただけで上出来だ。
村の中には小さい家が十軒ほど並んでいた。
そしてその奥にはギルドのような建物があった。
良かった、見た感じ人は住んでいそうだ。
とりあえずここで町がどの方向にあるのか聞いてみるか。
そう思ったけど——俺、言葉通じるのかな?
「何者だ!」
村に入ろうとするといきなり男から槍を突きつけられる。
良かった、言葉は通じそうだ。
それよりも俺もしかして怪しまれてる……? 何とか弁明しないと。
「ま、待ってください! 俺は怪しい者ではないです!」
「なら、通行証を出せ!」
「通、行、証?」
異世界にはそういうものがあるのか。
だけど残念ながら異世界に来たばかりの俺にそういうものは持ち合わせていない。
というか昨日、生まれたばかりの赤子と言ってもいいほどにこの世界のことを知らない。
そんな奴に通行証を出せと言われても……
「通行証を持っていないなら通せない」
まずい。このままだと追い返されてしまう。
「そこを何とか!」
「駄目だ!」
「——通してやれ」
槍を持った男の後ろから村長っぽい見た目のおじいさんが歩いてくる。
「でも、通行証を持ってない奴ですよ? 本当にいいんですか?」
「いいさ。どうせこの村も終わるんだし」
村が終わる? もしかして魔物の大群でも押し寄せてくるのか?
「あのー」
「あーすまないね。村を案内してあげるからついてきて」
多分、村長さん? の後についていく。
中に入ると意外にも子どもが多かった。
そして冒険者みたいな見た目の人も数十人ほどいた。全員、剣の手入れをしている。
「それよりも自己紹介をしてなかったね。私はこの村の長をしている『ロイド』だ」
「ロイドさん。俺の名前は……」
名前か。前世の名前をそのまま使うのもな——
そうだな、高橋優翔、ゆうと……ユウ。
「ユウです」
「ユウくんか。よろしくね」
「よろしくお願いします」
「そんなかしこまらなくていいよ。どうせこの村は——」
ロイドさんは浮かない顔だ。
やっぱり今から何かあるのだろう。冒険者が多いのも関係しているのだろうか。
「その、今から何かあるんですか?」
「実はね、これからこの村に盗賊団が来るんだ」
「盗賊団?」
その後、色々話してくれた。
話を分かりやすく説明すると——四日前に森に行った冒険者がたまたま盗賊団の話を聞いたらしい。
『四日後、分かってるな?』
『あぁ、村を襲って子どもを攫う』
『そしてそいつらを奴隷に売り飛ばす』
その会話を聞いた瞬間、冒険者は急いで帰って他の冒険者を集めたらしい。
それだけ聞くと他の村の可能性もあるけど多分、森の近くの村はここ以外無いのだろう。
俺も歩いている時、この村以外の建物を一度も目にしなかった。
ロイドさんが言うにこの村は田舎で人も少なくお金も無いから盗賊から狙われやすい。
厄介だな。
でも逆に考えれば知った日から四日の余日がある。
そのうちに強い冒険者を雇えば返り討ちにできそうだが。
「王国に応援要請は出したんだけど取り合ってくれなくてね」
お金が無い田舎村には用がないということか。
それだけ聞くと王国が腐っていることが分かる。
でも異世界だから日本と考え方が違っているから仕方がないのかもしれない。
「一応できるだけ冒険者は集めたけど——」
周りを見渡すけど確かに冒険者の数は少ない。
盗賊団の数にもよるけど、村長の顔を見るに多分、数は相手の方が多いのだろう。
どうしたものか。
考えているといきなり鐘の音が村に鳴り響く。
「この音は……?」
「この時が来てしまったのか」
「来たってまさか——」
「ユウくんは襲われる前に早く逃げろ!」
ロイドさんは入口の方へ走っていった。
冒険者の人たちもその後をついていった。
逃げろって、どうして村の人たちは逃げないんだ?
——そうか、この人たちは村を守りたいのか。この思い出の場所を盗賊の奴らに壊されたくないのだろう。
だけど子どもは逃がした方が良かったと思うけど逃げている時に襲われるのが怖かったのだろうか。
さて、どうするか。この村を救いたい気持ちはあるけど今の俺が戦力になるとは思えない。
逆に行って足手まといになる可能性すらある。
なら俺はどうすればいいんだ?
とりあえず入口の方に行ってみるか。
バレないように動いて岩の影に隠れて盗み見る。
三十人ほどの盗賊団に比べて村の戦力は十人ほどだ。
戦力差は三倍か。
「ここから先は通さん!」
一気に雰囲気が変わってお互いに武器を構えだす。
「…………」
次の瞬間、盗賊が一斉に走り出してくる。
村の冒険者がそれを長い槍や剣で盗賊を抑える。
冒険者は数人、倒されてしまうが、村側も盗賊団の奴らを次々倒していく。
勝機がないと思っていたけど、冒険者の人たちが頑張ってどうにか抑えている。
これなら勝てるぞ!
「遅い。お前ら何してんだ?」
馬車から一人の男が出てくる。
一目見た瞬間にあいつが強者だと分かる——他の奴と比べてオーラが違い過ぎる。
「相手の冒険者が厄介で——」
「どけ、俺が行く」
見るからに盗賊団のボスらしい者が前に出てくる。
「おい、お前ら! 何してんだ! そんな奴らさっさと殺せ!」
叫んだ瞬間にさっきまでの戦況が一変し、村側が劣勢になる。
冒険者が次々とやられていく。
そして盗賊団は数人やられただけに対して村側の戦力は一気に半分まで下がった。
このままじゃまずい。
ロイドさんが冒険者の後ろから歩いてきて最前線に立つ。
「もう、許してくれ……」
「おいおい、戦場のど真ん中で命乞いか?」
盗賊のボスも前に出てきてロイドさんの前に立つ。
ロイドさんは地面に頭をこすりつける。
「頼む、俺はどうなってもいいから中の子どもには手を出さないでくれ」
「うーん、どうしよっかなーこっちも味方殺されてるしなー」
「頼む……」
盗賊は少し考えると、いい方法が思い浮かんだのか話し出す。
「それじゃあ、交渉をしよう」
「交、渉?」
「あぁ、内容は簡単だ。村の全員殺されるか、俺たちに子どもを引き渡すか、だ」
そう言ってニヤリと笑う。
「なんだよ、それ……」
何が交渉だ。
子どもに手を出すなと言われてからそんな交渉を出すなんてあまりにも酷い。
助けに行かないとなのに足が震えて立てない。
せっかく神から貰った命だ。それをまた無駄にしてしまうかもしれない。
「文句があるなら、この交渉はもう終わりだ。少しの慈悲でお前だけは生かせてやる」
盗賊は入口の方へと歩いていく。
「ちょっと待ってくれ!」
「なんだよ、まだ何かあるのか!」
「頼む、もう村はどうなってもいいから子どもたちだけには——」
「しつこいぞ! もうお前から殺すぞ?」
「あぁ、いいさ。俺の命なんていくらでもくれてやる」
「そうか、いいんだな」
盗賊が剣を構えてロイドさんに向ける。
ビビっている場合じゃない——そうだ、俺は神と約束したんだ。
なんとしてでも人を救ってみせると。
俺は右手に『スパイダー』のスキルで糸を巻く。
よし、やってやる。
俺は盗賊が構えていた剣を振り下ろす瞬間に岩から飛び出した。
剣の刃は綺麗に糸を巻いた俺の右手にめり込む。
「何者だ!? お前は——」
「ユウくん!? どうして……」
「ごめんなさい、ロイドさん。遅れました」
「どうして戻ってきたんだ! 逃げろと言っただろ!」
「どうにも俺は困っている人を見過ごせない性格らしい。なので黙って俺に守られてください」
「なんなんだ君は……分かったよ、じゃあ君に全て任せる——頼む、この村を救ってくれ!」
「はい!」
俺には必勝法がある。
それは——
「一人増えただけで何になるんだよ?」
「言っておくけど君に負けるつもりはない」
「なめてんじゃねーぞ!」
敵の盗賊はいきなり剣で襲い掛かってくる。
ギリギリでそれを躱す。
「あぶなっ。少しぐらい話をしようよ」
「お前に話すことなんてねぇんだよ!」
「そうか、それなら——」
(スパイダー)
まずは敵の剣を糸で巻きつけて使えなくする。
「うわっ! 何だよこれ!」
次に敵の目に糸を出して視界を奪う——だけどこれはただの糸だから視界はすぐに戻ってしまう。
だったら戻る前に落ちている剣を拾って——
俺はすかさず剣を振り下ろす。
だが綺麗に躱される。
躱されただと!? 視界を奪っても駄目か。
だったらやっぱり、コピーを上手く使うしかないか。
でもこいつの技が分からない以上、下手にコピーは使えない。
「面白いじゃねぇかよ……って何してんだよ、これ!」
今俺ができることは、こいつにひたすら糸を巻きつける!
「鬱陶しい!」
糸を全て引きちぎられる。
やっぱり駄目か。スキルとはいえただの蜘蛛の糸だからすぐちぎられてしまう。
せめて背後を取ることができれば……いや、あの方法ならいけるかもしれない。
「どうした? 結局一人じゃ何もできないじゃないか!」
「そうだな……」
「お前の敗因を教えてやる」
話している隙にバレないよう小指から糸を出して敵の両足に付ける。
よし、準備は整った。
「つまり、お前では俺に勝てない」
「話は終わったか? なら始めるぞ」
「かかってこい、糸ぐらいすぐにちぎってやる」
俺は左手を構えて敵に繋げた糸に向かって唱える——
「ファイヤーボール!」
小さい炎は糸を伝って敵の足へ燃え移る。
「なんだよこれ! あっつ!」
俺は急いで敵の背後に回り、剣を振り下ろす。
その瞬間だった——剣は頭上で止まる。
なんだこれ……体が動かない。
敵の盗賊が笑い出す。
「勝ったと思ったか?」
「何をしたんだ!」
「麻痺スキルでお前の体を一時的に痺れさせた。勝敗は決まったな」
よし、準備は完全に整った。
敵の盗賊は剣を構えて振り下ろそうとする——その瞬間に唱える。
「コピー!」
すると振り下ろした剣はさっきと同じように頭上で止まる。
「なん、だと!? 体が動かない……? おい、何をした!」
「ただ君のスキルをコピーしただけさ」
「なん、だよそれ……」
麻痺スキルが解除されて体が動くようになる。
俺は体が動くようになったと分かった瞬間に敵の盗賊を斬り裂いた。
敵は地面に倒れ込んで血を流す。
こいつは色んな人を傷つけて何度も苦しい思いをさせたんだ。慈悲などいらない。躊躇いは捨てろ。
やっと倒せた! そう思うが周りを見渡すと盗賊団はまだ残り二十人以上残っている。
あとはこいつらを片付けるだけ、だ……
いきなりめまいに襲われる。
なんだ、これ。立つのも辛い。
あいつらを倒さないと、いけない、のに……
あまりの辛さに地面に倒れ込みそうになったその瞬間に誰かに抱きかかえられる。
「よく耐えてくれた。後は私に任せろ」
一瞬目を開くと女騎士のような人が次々に敵を倒していた。
良かった、もう安心だ。
そして俺は気を失った。
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