異世界転生
一瞬にして視界が暗くなり気づけば俺は森のど真ん中に突っ立っていた。
「ここが異世界、なのか?」
周りは木で囲まれており微かに水の音がする。
本当にこんな所に魔物がいるのか?
そんな場所とは思えない、というか本当に異世界に来たのかすらまだ実感が湧いていない。
やっぱり異世界と言えばダンジョンと町だ。
とりあえず町に向かいたいところだがまずは見た目がどう変わったのかが気になる。
神は転生と言っていたから顔が前世とは違っているはず。
近くにあった湖で自分の顔を確認する。
「なんだ、これ……」
水面に反射して映った顔は——前世と瓜二つの俺の顔だった。
「どういうことだ?」
別に前世の容姿が嫌いというわけじゃないけど転生って聞いてたからてっきり新しい人間として生きていくのかと思ってた。
いや、でもよく見てみたら目の色が違う?
前世では真っ黒の目だったが今はほのかに赤い。
もしかして、神が俺と瓜二つの容姿にしてくれたのか?
確かに前世と瓜二つの方が違和感がなくていい。
『苦労したんじゃからな』
微かにそう聞こえた気がする。
「ありがとう」
気になっていたことも分かったことだし、町へ向かうとしよう。
で、どっちを進めばいいんだ?
周りには木と湖しかない。
もう少し神からこの世界のことを聞いておけばよかった。
こういう時に重要なのは音だ。
俺は昔から親に耳がいいと言われていた。だけどそれも今となっては前世のことだからもう関係ないか……
目をつぶり耳を澄ますといろいろな音が聞こえてくる。
鳥のさえずり、川のせせらぎ、風のそよぎ、そして……ゴブリンの声。
ん? ゴブリンの声?
急いで目を開けると一匹のゴブリンがこっちに向かって走ってくる。
「ヤー!」
「ちょっと待ってくれ! 俺はこの世界に来て間もないんだ!」
語りかけるがゴブリンは問答無用で手に持っている木の棒を振り下ろす。
その棒は綺麗に俺の頭に当たる。
「痛っ!」
どうやら戦うしかないみたいだ。
「いいだろうゴブリン、やってやるよ!」
とは言っても格闘経験なんて皆無だ。とりあえず殴ってみるか。
ゴブリンに拳を振り下ろすが全くと言っていいほどダメージが無さそうだ。
そうか、こういう時にスキルの『コピー』を使えばいいんだ。
相手のゴブリンに技があるようには見えないが試しに使ってみるか。
それなら早速——
「コピー!」
するといきなり宙から木の棒が出てくる。
ん? もしかしてこれが、スキル……?
果たしてこれをコピーと呼べるかは分からないが、俺の拳よりかは何倍もマシだろう。
「さっきのお返しだ!」
それから俺とゴブリンの激闘が繰り広げられた。
「はぁはぁ」
何とか勝てた。
ゴブリンを倒すと死体が消えて魔石のような物が出てきて同時に持っていた木の棒も消えた。
どうやら技をコピーした対象が死んでしまうと自分からもその技が消えるらしい。
まぁさっきのは技というよりただ武器を真似ただけだが。
それと肝心の魔石はゴブリンなだけあってか大きさは豆粒ぐらいだ。
やっぱりゴブリンは初級モンスターということか。
一応取っておくか。
この『コピー』のスキルは敵の技が弱ければ弱いほど俺の攻撃まで弱くなってしまう。
つまり俺は強い敵に対しては強くなるということだ。
改めて思うがこのスキル……かっこいいな。
まぁでも神の言ってた通り、一度攻撃を受けないとコピーを使えないからそれで死んでしまえば元も子もない。
防具で何とか補うしかないか。
そのためには早く町を見つけないと。とりあえず歩こう。
五時間ほど歩いているけど建物一つ見当たらない。
さすがに疲れた。少し休憩するか。
でかい岩に座ると同時にお腹がグーと鳴る。
お腹が空いた。でも食べ物は何も持っていない。
もっと神に貰っておくべきだったか? いや、頼りすぎるのは良くない。それに今の俺には『コピー』がある。
こんなところで躓いていてはこれから先やっていけない。俺は人を救うんだから。
幸いなことに近くで水の音がする。もしかしたら魚が泳いでいるかもしれない。
行ってみるか。
音の方に行くとそこには綺麗な川が流れていた。
これだけ水が綺麗なら飲めそうだし魚も新鮮で美味しいだろう。
俺は川の水をがぶがぶ飲む。
美味いぞ! 水をこんなに美味いと思ったのは生まれて初めてかもしれない。
これも異世界のおかげだろうか?
川を覗いてみると中ぐらいの魚が数匹、泳いでいた。
よし、あれを一匹でも捕まえればお腹を満たせそうだ。
だけど簡単には捕まえれないだろう。
そう思っていたが案外簡単に捕獲できた。
異世界の魚は地球のと違って動きが遅かった。そのおかげで素手で捕まえれた。
調味料が無いのは残念だけど焼けば何でも美味しくなる!
そのためにはまず火を起こさないと。
俺、魔法とか使えるのかな?
試しに右手を構えて唱えてみる。
「ファイヤーボール!」
するとちっちゃい炎が一瞬だけボっと出る。
おぉ。どうやら魔力はあるらしい。
だけど使いこなすには訓練が必要だな。
もしかしてコピーのスキルも魔力を使うのだろうか?
どっちにしろ使いすぎは厳禁だな。
それよりも火だ。
こんな小さい炎じゃ火は起こせない。
仕方ない。落ちている木を集めるしかないか。
小枝や木、ツタのようなものを集める。
「お? これとか良さそうだ」
よし。だいぶ集まった。
木とツタさえあれば弓切り式で火を起こせるはずだ。
曲がっている枝にツタを巻きつけて弓のようにすれば——完成だ。
これであとはひたすらに擦る!
それから何時間も擦った。
よし! やっと火が付いた!
見上げると空はもう真っ暗になっていた。
そんなに時間が経っていたのか。集中していて気づかなかった。
魚に木を突き刺してあとは出来上がるまで待つだけだ。
いい香りが漂っている。美味そうだ。
もう充分だろう——さて、実食。
美味い……せっかくなら塩を欲しいところだけど苦労して作りあげたおかげで無くても満足だ。
美味かった。
火さえどうにかすればこれから食い物には困らなそうだ。
今日はもう暗いから眠りたいがさすがにこんな森のど真ん中で無防備に眠るのは危険だ。
どうしよう。
考えていると足元に小さい蜘蛛が歩いてくる。
異世界にも蜘蛛っているんだな……そうだ! 蜘蛛の糸を使えばいいんだ。
一度、蜘蛛にわざと手を噛まさせて。
「痛っ」
これで次にコピーすれば……いや、ちょっと待て。
蜘蛛ってお尻から糸を出すよな? つまり今コピーを使えば、俺の尻から糸が出るんじゃないのか!?
どうしよう。蜘蛛の糸でハンモックを作ろうと思っていたけど、お尻から糸か……いや、やるしかない!
一度深呼吸をして覚悟を決める。
「コピー!」
すると手から蜘蛛の糸が出てくる。
手から!? まるでスパイダー〇ンじゃないか!?
でも……かっこいい! 手から蜘蛛の糸を出すなんて男の憧れじゃないか。
よし、これなら寝所もすぐに作れそうだ。
まずは木に登り、登った木と前にあるもう一つの木に蜘蛛の糸を幾重にも重ねて繋げる。
よし、完成だ。
魔物が怖いけど、こんな高い所に作ればさすがに大丈夫だろう。
今日は疲れた。明日また町を探そう。
◇◇◇
「ヤー!」
「ヤー!」
変な声とともに目が覚める。
なんだ!? 下から嫌な声がする。
下を覗くと、二匹のゴブリンが木の棒を振り回しながら叫んでいた。
くそ、最悪の目覚めだ。こいつら、絶対に許さん。
昨日の蜘蛛は逃がしたから糸のスキルがまだ使えるはずだ——これからもこのスキルは使いそうだし一応、名前を決めておくか。
シンプルに『糸』でもいいがせっかくならかっこいい技名にしたい。
かっこよくてシンプルなやつがいい、そうだな……名前は『スパイダー』だ!
だったら早速——
「スパイダー!」
二匹のゴブリンに糸を付けて木に巻き付ける。
いきなりのことで二匹は驚いて騒ぎ始める。
「お前たち、覚悟しろよ」
騒いでたゴブリンは一気に静かになり、怯える。
怯えているゴブリンから木の棒を奪って一発ずつ殴る。
「よし、このぐらいで許してやる」
さすがに殺すのは可哀想だから糸を取って逃がしてあげた。
相手が魔物であれ無抵抗の生き物を殺すのは気が引ける。
さて、また町探しの旅に出るか。
そしてまた歩き始める。
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