第9話

葉綾と紬央は、ケーキの入った紙箱の紙袋を大切に持って歩きながら、どこかほっとしたような表情を浮かべていた。街の灯りが静かに輝き、二人の歩く足音がやけに穏やかに響く。寒さを感じつつも、心の中には暖かさが広がっていた。クリスマスの夜。外の空気は冷たいけれど、二人の間に流れる空気はどこか温かかった。


「なんだか、こうして歩いてると、クリスマスって不思議な感じがするね。」葉綾がぽつりとつぶやいた。少し考え込むように前を見つめながら、言葉を続けた。「恋人と過ごさないといけないって思い込んでたけど、こうやって友達と過ごすのも悪くない。」


紬央はしばらく黙って歩いていたが、やがてその言葉に答えるように口を開いた。「私もそう思うよ。実際、そういう風に思ってる人たちにとっては、私たちみたいなのは“ダメなクリスマス”かもしれないけど…。」


葉綾はその言葉に少し驚いたような表情を浮かべて振り返った。「ダメなクリスマス?そんなこと言わないでよ。」彼女は笑いながら言ったが、心の中では少し安堵感を覚えていた。紬央がそう思っていることが、彼女自身にとっても心地よく感じられたからだ。


葉綾と紬央はケーキが入っている紙箱の紙袋を手にし、街の灯りが揺れる静かな夜道を歩きながら、家へと向かった。クリスマスの夜、二人の足取りは軽く、どこか身体がふわふわする感覚が広がっていた。ケーキを包んだ紙箱の紙袋を大切に抱えながら、葉綾が言った。


「失恋は悲しいけど、」


紬央は少し顔を上げて、優しく葉綾を見た。


二人は家に着くと、早速テーブルにケーキを並べた。箱からケーキを取り出すと、鮮やかなデコレーションと、クリスマスらしい華やかな雰囲気が広がった。ケーキのプレートには葉綾の名前と紬央の名前が並び、心の絆を象徴するハートの絵が添えられていた。「葉綾❤️‍🩹紬央」と書かれ、ハートの絵が添えられていた。それを見た瞬間、二人の心の中で何かが弾けるような気がした。


「わぁ、すごくかわいいね。」紬央が嬉しそうに言った。その目はケーキに向けられながらも、どこか寂しさや孤独感を感じていた自分が少しずつ解凍していく。


葉綾は微笑んだ。


紬央は静かに頷き、ケーキを一口食べた。甘い味が口の中に広がり、何かしらの安らぎを感じさせた。ケーキの甘さが、心の中の不安や悲しみを溶かしていくようだった。



紬央はケーキを食べた。甘い味が口の中に広がり、嬉しさが溢れる。


ケーキの甘さが、二人の心の隙間を埋めるように広がり、静かな夜の中でその瞬間を共有していることが、何よりも幸せだと感じた。失恋したり、思い通りにいかないことがあっても、二人はこうしてお互いに少しずつ前を向いて歩いているのだと、改めて実感した。


「私は好きだな。」葉綾が目を細めて言った。「特別なことはないけれど…。」


紬央は静かに頷き、微笑んだ。「幸せだよね。」


それは無理に明るく振る舞わなくても良いという、素直に自分を出せる安心感から来る言葉だった。


「なんだか、こうして一緒に過ごすのも悪くないな。失恋しても、こうやって気持ちが少し軽くなるなら、いいかなって思える。」


紬央は少し顔を上げて、葉綾を見た。「うん、そうだね。お見合いも、好きな人との関係も、うまくいかなかったけど、こうやって一緒に過ごす時間はすごく大事だって感じるよ。きっと、私たちにはこれが必要なんだろうね。」


紬央が目を細めると、葉綾も同じように微笑んだ。


二人はしばらく黙ってケーキを食べながら、心の中でそれぞれ思いを巡らせていた。何かを失っても、また新しいものを手に入れることができるということを、きっとこのクリスマスの夜が教えてくれているのだろう。失恋したり、思い通りにいかないことがあっても、二人はこうしてお互い共に過ごすことでまた歩み出す力を得たような気がした。


紬央は微笑みながら、ケーキを一口食べた。その甘さが、どこかほっとするような感覚を与えてくれる。

二人はケーキを食べ終えた後、葉綾は窓の外を見つめる。外は冷え込み、街の明かりがほんのりと輝いている。クリスマスの夜、街の片隅でこうしてふたりだけの時間を過ごすことが、どこか贅沢に感じられる。


ゆっくりと食器を片付けながら、何気ない会話を続けた。外はクリスマスの寒さに包まれているけれど、家の中では二人の温かな時間が、静かに流れていった。


葉綾がふと口にした。「ありがとう、紬央。」


「私も、ありがとう、葉綾。」紬央は笑顔で答えると、また一口ケーキを食べた。


二人は互いに微笑み合った。外の冷たい空気とは裏腹に、心の中にはクリスマスの光が広がっていくような気がした。


そして、ふと気づけば、今年のクリスマスもまた特別なものとなった。それは、二人が共に過ごし、共に癒し合ったからこその特別さだった。


「私は好きだな。」葉綾が目を細めて言った。「特別なことはないけれど…」


紬央は静かに頷き、微笑んだ。「私もそう思う、幸せだよね。」

紬央は少し感慨深げに言った。「私たち…。」


葉綾は頷きながら、「そうだね。人それぞれに大切な時間があるよね。」そう言って、彼女もケーキを食べる手を止め、紬央を見つめた。二人はしばらく黙っていた。


無言で座っていたが、ケーキの残りを最後のひと口を楽しみながら、ほっとする二人。


その時、窓の外でひときわ大きなクリスマスのイルミネーションが輝きを放つのが見えた。二人の未来も、そんな明るい光の中にあるように感じられた。新たな始まりを予感させる、穏やかな夜だった。


ケーキの甘さが残響し、二人の心の隙間を埋めるように広がり、静かな夜の中でその瞬間を共有していることが、何よりも幸せだと感じた。失恋したり、思い通りにいかないことがあっても、二人はこうしてお互いに支え合いながら、少しずつ前を向いて歩いているのだと、改めて実感した。


二人はゆっくりと食器を片付けながら、会話を続けた。外はクリスマスの寒さに包まれているけれど、家の中では二人の温かな時間が、静かに流れていった。

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