第3話

冬の冷たい風が吹き抜ける学校の中庭で、紬央はぼんやりとベンチに腰を下ろしていた。遠くでクラスメートたちが笑い合う声が聞こえるが、自分には遠い世界の音のように感じられた。


最近、学校での人間関係がどうもうまくいかない。クラスメイトとの些細な言い合いがきっかけで、周囲の視線が少し冷たくなった気がしていた。友達と呼べる存在も今はどこかよそよそしく、休み時間がやけに長く感じられる。


「しょうがないよね…」

紬央はそう呟きながら、目の前の地面を見つめた。誰かに責任を押し付けるつもりも、自分を責めるつもりもなかった。ただ、心のどこかで「これが自分らしいんだ」と諦めに似た感情を抱いていた。


そんなとき、不意に頭に浮かんだのは葉綾の顔だった。


葉綾は、自分と正反対の存在だ。派手さや目立つ性格ではないけれど、その場にいるだけで自然と周りを安心させるような、不思議な魅力を持っている。自分が迷ったとき、気づけば彼女の言葉に救われていたことが何度もあった。


「葉綾に会いたいな。」


紬央はふと笑みを浮かべた。葉綾が自分と同じような状況に陥る姿を想像できない。それは彼女が特別強いからというわけではなく、葉綾は物事をあるがままに受け入れる柔軟さを持っているからだ。自分が「しょうがない」と諦めるのとは違う。彼女は「しょうがないなら、次を考えよう」と自然に前を向ける人だった。


中庭の木々に絡みつくイルミネーションが、紬央の視線を引いた。クリスマスが近づいていることを思い出すと、なんとなく寂しさが和らいだ気がした。


放課後、紬央は葉綾に会いたくなり、そのまま彼女の家へと足を向ける。理由は特にない。ただ、葉綾のあの柔らかな雰囲気に触れたかった。自分が元気をもらえる存在に会うだけで、少しでもこのモヤモヤした気分を解消できる気がしたからだ。


玄関先で出迎えてくれた葉綾は、いつもの穏やかな笑顔を見せた。その顔を見た瞬間、紬央は「やっぱりここに来てよかった」と思った。


「紬央?。」

葉綾が優しく問いかける。


紬央は少しだけ言葉を詰まらせた後、ぽつりと答えた。「ちょっとね、人間関係でつまずいててさ。でも、葉綾の顔見たら、なんかどうでもよくなったかも。」


葉綾は驚いた顔をしてから、静かに笑った。「来てくれて嬉しいよ。」


その言葉に紬央は胸が温かくなった。


紬央は少しずつ自分の気持ちを整理していった。人間関係に悩むのも悪くない。それも自分の一部だと思えるようになった気がした。


葉綾は微笑みながら、そっと紬央の手を取った。「今日はうちでお茶でも飲んでいかない?」

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