一限目は国語で作文

 国語というものは、この上なく厄介な科目である。何やら含みを持った短い物語を読ませて登場人物の気持ちはどんなものかと問うてみたり、作文を原稿用紙ウン枚分は書きなさいと生徒を缶詰にしてみたりする。

「あ〜、あれ面倒くさいよね、登場人物の気持ち云々のやつ。俺も苦手なんだよね」

 貴様の不得手は聞いていないが珍しく気が合ったな。好きでも無い小説、特に魅力を感じないストーリー、登場人物の気持ちは如何と問われても、知るかとしか言いようが無いものだ。この世の中で最も無駄な時間はそれだ。滅べば良い。

「ほろッ……過激だな?! そこまで毛嫌いしなくても……気持ちは分かるけど。まぁ、あれだよね……情操教育ってやつ?」

 己がこれが読みたいと思わねば、どのような素晴らしい物語も色褪せて見えるというものだ。カシミールだかオートミールだか知らぬが、彼奴らの友情なぞ私の知ったことでは無い。

「あ、俺それは好きだよ。可愛いし」

 ……。

「視線冷た!」

 そうかそうか、貴様はそういう奴なのだな。

「しっかり読んでるじゃないか」

 まあ貴様がそういう奴なのは今に始まったことでは無かったな。失礼した。

「謝罪することによって貶してるよね、それね。なんか俺に対して当たり強いんだよなぁ……別にいいけど……っていうか早く感想文仕上げなよ」

 ぐっ。私の深遠なる思考は、このような紙切れには収まらぬわ……ッ! 

「適当に書いておけばいいのに……」

 そもそもだ。今回のこの小説、民草をこのような劣悪な環境に置いて、時の政府は一体何をしているのか。貧困、疫病、災害、これらに対し、何の策も打たなかったと言うならば、それは為政者の器ではない。即刻玉座から引きずり下ろせ! 国とは民があってこそ発展するものであろうが。

「それが理想だけどねぇ……しかし貧民街的なものはどこにでも生まれ得るわけで」

 温いな。平安とは良く言ったものよ。地獄と名を改めるべきではないか?

「平安時代って言うと、優雅でのほほんとしたイメージだけど。そんなのは上流階級の人種だけ、っていうのはまあよくある話か」

 何にせよ、下人の罪歴は強盗致傷とわいせつ行為で決まりだな。年老いているとは言え女の衣服に手をかけるとは、痴れ者めが。

「そ、そういう視点はなかったな?!」

 この突然のセンチメンタリズムもよく分からぬな。さては作者は厨二病か。覚えたての言語を使ってみたかったに違いない。

「日本を代表する文豪に何てこと言うの……厨二病は他に立派なのがいるだろ」

 あぁ、帽子を被ったあの男か。

「ランボーが好きだったんだって。可愛いよね」

 ……。

「視線が冷たい!」

 汚れっちまったどころではないな、貴様は陰鬱なる汚濁の塊だな。

「いやいやいや、ほら、ランボーはほら、俺の祖国の詩人でしょ? それを好んでくれるのは嬉しい、っていうあれだよ」

 して、その心は?

「童顔だし可愛いよね」

 貴様知っているか、日本には八大地獄というものがあり、それぞれに十六小地獄というものが付随しているそうだぞ。

「聞いたことはあるけど、何で今それを言うのかな?」

 羅生門の下人が二番目の黒縄地獄ならば、貴様は七番目の大焦熱地獄だなと思っただけだ。他意はないぞ。

「で、その心は?」

 貴様はそろそろ地獄の業火に焼かれろ! 

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