第3話

佐藤亮太の死の背後に潜む謎が深まる中、私は新たな手がかりを追ってN街南西のN病院に足を運ぶことに決めた。この病院は、地域の医療施設として有名ではあったが、その周囲には奇妙な噂が囁かれていた。特に、最近では患者が次々と行方不明になったり、不可解な症例が続発しているという話が耳に入っていた。


病院の外観は古びており、ひび割れた壁や薄暗い窓が、まるで時の流れに取り残されたような印象を与えていた。私はその近くに立ち止まり、深呼吸を一つ。調査を進めるうちに、どうやらこの場所もD.D.Cと何らかの関係があるようだと気づいていた。


「氷の使徒」と呼ばれる存在が、この町の裏側で暗躍していることを疑い始めてから、私の直感は確信に変わりつつあった。遺体の動き、そしてその冷気の正体がこの病院に何か関係しているような気がしてならなかった。


病院の敷地に入ると、ひんやりとした冷気が肌を刺した。周囲にはほとんど人の気配がない。おかしい、こんな時間帯にも関わらず、誰もいないのは異常だ。


突然、背後で足音が響いた。その足音は、ただの人間のものではなかった。冷たい風を切る音が、確実に迫っている。その瞬間、私は振り返ることなく全力で走り出した。背後から何かが迫ってくる、氷のような冷気と共に。


足音は近づき、私は次第にその恐怖に引き寄せられるような気がしていた。今、この場にいるのは、単なる捜査の一環ではない。私自身が、その「氷の使徒」に引き寄せられているのだ。


突如として、視界が白くぼやけ、周囲の温度が急激に低下していった。目の前に現れたのは、氷の使徒だった。先程の部屋で見たものと同じ、透明な氷でできた人型のモンスターが、冷徹な目で私を見つめていた。


その目は、まるで私の存在を完全に無視し、ただ冷徹に「消すべきもの」を探しているようだった。


「やばい、これは…」私は心の中で叫んだ。


氷の使徒が一歩、また一歩と迫ってくる。足元に冷たい氷が広がり、周囲の空気もますます凍りついていった。私は冷気に身体が凍りつきそうになるのを感じながら、どうにか動こうとした。しかし、氷の使徒が手を伸ばすと、私の体がその冷気に引き寄せられるような感覚に襲われ、足元がすくんだ。


「もう…ダメか?」


その時、突如として、炎のような温かい感覚が私の周りに広がった。まるで私を包み込むように、青白い氷の世界の中に、温かな光が差し込んだのだ。足元の氷が砕け、熱風が吹き荒れ始める。


「何だ、これは…?」


私は驚いて目を見開いた。その瞬間、冷気の中から現れたのは、別の人物だった。髪が赤く、服装も不自然に華やかなその人物は、まるで炎そのもののように、周囲を温かい気を放って包み込んでいた。


その人物は、冷静に氷の使徒に向かって一歩踏み出した。そして、手をかざすと、周囲の空気が突然燃え上がった。炎が氷を溶かし、氷の使徒の足元から、凍っていた床がどんどんと溶けていく。


「これは…パイロキネシス?」私は驚きの声を上げた。


その人物は無表情で氷の使徒を睨みつけながら、手をもう一度かざした。今度は、まるで火山のような熱波が爆発的に放たれ、氷の使徒を包み込むように炎が飛び散った。


氷の使徒は激しくその炎に包まれ、身をよじらせながら後退した。しかし、炎が触れると同時に、その身体の一部が溶け、元々の氷のような形状が崩れ落ちていった。氷の使徒は、ついにその冷気を保つことができなくなり、凍った体が一気に溶け始める。


「逃げろ!」その人物は冷静に私に命じた。


「こ、これって…あなたは一体?」


私はその人物を振り返りながら尋ねたが、彼は微笑みを浮かべながら、短く答えた。


「私は君の助っ人だ。パイロキネシスを使う者。君の調査が進むことで、もっと多くの闇が見えてくるだろう。だが、今は君の命を守ることが先決だ」


「パイロキネシス…」私はその言葉を噛みしめながら、目の前で溶けていく氷の使徒を見つめていた。


その人物は、氷の使徒を完全に消し去ると、冷静に私に向き直った。彼の顔には不安げな様子は全くなく、ただしっかりとした目的を持っているような眼差しがあった。


「君も、もう気づいているだろう。これから先、君が進むべき道には、恐ろしいものが待ち受けている。」


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