第二話 双子探偵 その7/電脳の福音
―――十年前、アメリカ合衆国ボルチモア。
「つまり、『死ななくなります』」
端的な言葉が有効だ。だから、プレゼンでこの言葉をつかうことは決めていたんだよね。
すべるはずがない。
……私が提唱するAI技術の最たる特徴っ。みんな、死ぬのは怖いだろ。そのせいで、うつ病にもなるし恐怖のせいで自殺したり、ストレスで内臓やられたり……治療効果が出るはずのプログラムを受けても回復しなかったりする。とてつもない悩みのくせに、これまでは絶対に回避できなかった。
大切な家族も。絶対に、失っちまうんだ。自分も含めてだけじゃなく、周りも。無数の聖人や哲学者、医者たち、二十世紀からは精神科医やら心理学の研究者たちもだな。
とてつもない才能を持った人たちが苦しみながら、人類を苦しめているこの究極の課題について、膨大な時間を捧げて対策を練ろうとがんばってきたのに。
いまだに解決できちゃいない。死だけは、絶対だ。どんなにがんばっても、自分も老いて、いつかは死んじまう。その苦しみを考えるだけで、人は不安に襲われてしょうがないんだ。
こいつは人類における、最大のバグだよ。その存在を信じちゃいなけれど、神さまってのはマジで意地悪だよな。どうして、こんなに賢く作ってくれたのに、命を有限に設定しちまったんだよ。おかげで、めちゃ、苦しい思いをしなくちゃならない。
死だけは、絶対。
でも、それがついに科学の力で克服されちゃうんだから。ワクワクだよな!
「故人の情報を学習させることで、完璧に性格と思考傾向が再現されるのですから。仕草も完璧。声も表情も。故人との会話が、完璧に行えます。つまり、人は不死を手に入れる!」
誰かの心に突き刺さるはずだ。
ここはアメリカ。
金の亡者の国。
病人を冷凍保存させて、治療方法が確立する未来まで寝かせておく。そんな詐欺でさえ、この国では大金を稼げるのだから。SF大好き!
不死。
んん。『魂の電脳化』の方が、良かったかな……?
とにかく、意味は同じ。それに多くの者が、飛びつくはず。誰もが死後の復活に期待しているわけじゃない。イエスがノーっていったら、地獄行きなんてひどいだろ。あらゆるミリオネアが善人だったとは限らないよね。
善も悪も、科学なら超越する。金さえ払えば、死なないんだ。肉体は滅びても、自我は永久に保存される。なら、死なないのと同じでしょ? 永遠の楽園はサーバーのなかにある!
「私の技術とアイデアなら、他の研究者よりも、三年は先を行けます。この成長著しい分野で、それは、とても大きなアドバンテージであり―――」
「4500万ドル出そう。これが全額ではない。継続的にこちらが行う支援の、最初の一歩だと考えてくれたまえ」
……失禁するかと思った。さ、さすがは、チャイナマネー。いや、こいつはジャパニーズだったか。カンフーパンダじゃなくて、NARUTOの方だと記憶しておかなくちゃ。アメリカ人が飛びつくと思っていたけれど、問題ナシ。私もアジア系の養子だから、親近感が湧くってものだよね!
ああ。とんでもない詐欺を、成功させた気分……い、いや。私の技術も理論も正しいんだから、あのコールド・スリープ詐欺にはならない。
「故人の人格を再現できるというのは、とても興味深いよ。我々が求めていたことだ。そのためなら、惜しくない投資だね。これは大きな夢だ。『彼ら』も、喜ぶよ」
「『彼ら』というのは、ミスターの、クライアントですか?」
「たくさんの清らかな願いさ。それが、君に研究資金をもたらす。がんばろうじゃないか、若き天才、コレット・ジョーンズくん。人類を救わなくちゃならない」
うん。
マジで、大金持ちになるぞ。それに、それに……ずーっと、グランマといっしょ!
これからは死んだくらいで、愛は終わらないよ。グランマと私は、二十三世紀を見るんだ!
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