第10話
カヅキと別れたあと、ナオが僕に問いかけてきた。
「ねえ、さっきの人って中学校の同級生なの?」
「うん。同じ野球部だったんだ。あいつ、全然変わってないや」
「なんか元気なさそうだったね」
「そうだった?いつもあんな感じだったぜ」
ナオは少し考え込むように僕を見つめると、ふっと笑った。
「テツってさ、たまに人の気持ちがわからない時があるよねー。そういうところだよ!」
「何だよ、それ!」僕は笑って返したけど、その言葉はどこか心に引っかかった。
正直、僕の中ではもうカヅキと再び交わることはないと思っていた。僕たちはそれぞれ別々の道を歩んでいる。それは中学の頃には想像もできなかったけど、今となっては自然な流れに感じられる。
けれど、カヅキのことを考えると、少し胸が締めつけられる。中学時代、カヅキはいつも努力して、自分の居場所を自分で作り上げるような強さを持っていた。そんな姿に、僕も何度も励まされていたんだ。
でも、あの時のカヅキは確かに元気がなさそうに見えた。それでも彼なら、それを乗り越える力を持っている。僕はそう信じたかった。
「(カヅキ、頑張れよ)」心の中で、そっとつぶやく。
「ねえ、何考えてるの?英雄みたいな顔して!」
ナオが僕を見上げて、茶化すように言ってきた。
「ん、いや、カヅキ頑張れよって思ったんだ」
「へへ、優しいね、テツは」
ナオは笑ってそう言ったけど、その言葉はどこか温かく響いた。
今日は、明日のDJバトルに向けた最後の練習をするため、ナベくんの楽器屋に向かう予定だった。ナオが「保護者としてついて行きたい」と言い出したので、一緒に行くことにした。
楽器屋に入ると、ナオはすぐにナベくんを見つけた。
「あっ、ナベくん!今日はテツの保護者として来たよ!」
「おっ、ナオちゃん久しぶりだね!じゃあ、テツ今日は保護者参観だな」
「何だよ保護者参観って!」僕は少し恥ずかしさを隠しきれずに言い返す。
そのまま練習に入ると、ナベくんが細かいアドバイスをくれる。
「テツ、ここはこういうアレンジにしてみたらどうだ?そっちの方がテクニカルではあるけど、全体のバランスには影響が出るかもしれない」
「なるほど。じゃあ、一回試してみる!」
僕は野球をやっていた頃から、アドバイスを素直に受け入れる柔軟性には自信があった。それに、集中して取り組む力も自分の強みだと思っている。そうやって、新しい環境にも順応し、自分を変えることができたのだと信じている。
練習が進むにつれ、調整も順調に進んだ。ナベくんが満足そうに僕を見て、言った。
「テツ、いいじゃん!細かいミスもほとんどなくなったし、アレンジのポイントもハマってる。これはいけるかもしれないぞ」
「本当に?ありがとう!よし、これで練習終わりだ。いよいよ明日!」
ナオも興奮気味に僕に声をかけてくる。
「テツ、めちゃくちゃ上手くなったね!細かいことは正直わからないけど、すごくかっこよかった!」
ナオの言葉に少し照れながらも、明日のバトルに向けて自信がついた。これで勝てば、僕は変わることができる。
胸を張ってナオや、クリや、ジュンの隣に立てる。あの時、野球部を辞めた自分にも胸を張れるようになるはずだ。
「よし、やってやる!」僕は心の中で強く決意した。
その夜、ベッドに入ると、再びカヅキのことが頭をよぎった。あいつは今、どんな気持ちでいるんだろう。中学時代の仲間たちは、もう集まることもないのだろうか——。
けれど、そんな思いを振り払うように目を閉じた。明日が僕の新たな一歩になる。そのために、今は自分のことに集中しようと思った。
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