第7話 孤独な努力

ナオと付き合ってから僕の生活は一変した。

二人で食べるものは2倍美味しく感じられ、一緒に過ごす時間は2倍楽しかった。


野球を辞めて今の生活を選んだ事が正解だったんだとそう信じさせてくれた。


僕らは高校2年生になった。

ナオと付き合ってからは自分が自分でいられる時間が増えた。ナオの前では自然でいられる。


買ったターンテーブルでDJの練習を頑張って昨年の文化祭では僕らのクラスはクラブをやった。


ナオも僕らの文化祭に遊びに来てくれた。僕らの高校は共学だったけど、女子校のナオはものすごく目立った。


ナオはなんか文化祭に来た時に気を張ってたらしい。僕と仲の良さそうな女の子がいないか、睨みを効かせてたって後から聞いた。


ナオはなんか猫っぽいところがあった。なんて言うか雰囲気というか。


そこからうちの学校の女子にテツの彼女は獲物を狙う猫のような眼でめちゃくちゃ睨んでくる猫みたいなヤンキーだという事で、ナオはキャットヤンキーというあだ名を影でつけられていた。


そして僕はそんなキャットヤンキーと付き合ってるやつという事で遊んでるやつ扱いされてしまっていた。


でもそんな事は気にしなかった。本当の僕のことはナオやクリやジュンが知っている。そいつらさえ僕の事を知っていてくれれば充分だと思った。



カヅキは高校に入ってすぐに野球部に入った。


頭の良かったカヅキは県内でも有数の進学校に進んだ。カヅキは中学では強打の4番打者として強豪校からもスカウトが来ていたほど野球は上手くなっていたけど、カヅキは進学校を選んだ。


カヅキは野球も変わらず頑張りたいと思った。そのために勉強も今まで以上にやって野球の練習もこれまで以上に取り組んだ。でもそれがカヅキを苦しめることになった。


ある日先輩から、「カヅキうちは弱小校だから練習なんて無駄だぜ。お前がいくら県大会優勝のエリートでもうちに入った瞬間お前の上手さなんて無駄なんだぜ。そんなに野球やりたいんなら他の高校行った方がいいぜ」と言われた。


「ありがとうございます。でも自分はもう少し練習していきます」


先輩は舌打ちをして言い放った。

「お前俺の事馬鹿にしてるだろ。馬鹿なのは無駄な努力している生産性が低いおまえだぜ」


カヅキはそこから野球に無駄な努力をする変わったやつというレッテルを貼られる事になってしまった。でもカヅキは自分を変えなかった。周りが練習をサボって塾に行こうが、決して練習に手を抜かなかった。


そんな時、テツにたまたま駅であった。

テツは中学校の頃から変わっていた。髪が伸びて派手な友達と楽しそうにしていた。しかも野球を辞めていた。僕より野球が上手くて才能があったのになんで簡単に辞められるんだ?それが疑問だった。


「俺は実は野球辞めたんだ。でも結構楽しんでるよ。じゃあ、またな。」


テツの軽い言葉に正直腹が立った。

僕は野球を辞めたくない。諦めたくない。そう強く信じて練習を続けた。


でも結局は試合に出してもらえなかった。しかも練習試合を含めて一度も勝てないまま無駄に時間を過ごしてしまった。でも、カヅキは自分の行動でいつか周りは変えられるとそう信じていた。


「中学の時は自分が結果を出した事で周りを変える事ができた。」


カヅキはそう信じて一人孤独な努力を続けていた。


でも環境は変わらない。いつも通りダラダラと練習して時間になったら当然のように帰る先輩や同級生。


自分が率先して背中を見せ続ければいつかみんなを変える事ができる。そう信じて頑張っているうちに次第にカヅキはすり減っていった。


「僕もみんなと同じように野球を諦めたら楽なのかもしれない。でもそれは僕じゃない」


カヅキの頭の中によぎる誘惑。でもカヅキはそれはできなかった。自分を裏切ると自分が自分ではなくなる。僕がこのチームを勝たせる。僕は変わらない。そう誓って一人練習を続けた。

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