第6話 口の悪い女の子

僕はその帰り、初めてナオと手を繋いだ。

ナオと付き合っている。その事実が街を彩る。


初めて触れるその手は小さく華奢でそれでいて少し温かった。


「あれ?ナオ?」


後ろから声がして振り返るとそれは僕も知っている顔だった。中学で同級生の里園瞳だった。読者モデルやっていて最近街でスカウトされ事務所に入ったという噂もあった。地元では有名な女の子だった。高校からナオと同じ学校に進学してナオとも友達だった。


僕はコイツが苦手だった。可愛いけど口がめっちゃ悪い。


「あっヒトミ!あとヤマ君も久しぶり」

ナオがヒトミに声をかける。


ヒトミの横には、背が高くてオシャレなモデルのような雰囲気を持つ男が立っていた。


「あっナオ!でそちらはヒトミの知り合い?」


「うんそっちの冴えないのは中学の同級生。ヤマと小学校同じなんじゃないかな」


「同じ小学校?あれおまえテツか?久々だなー元気か?」


突然現れたのは山仲翼ことヤマだった。小学校時代に親しくしていた友達で、いつも一緒に遊んでいた。中学受験で別々の道を歩み、疎遠になっていたヤマが、再び僕の前に現れたのだ。


ヤマの登場は小学校時代の思い出を呼び起こした。僕たちは一緒にスケートボードをしたり、スケートリンクに行ったりして遊んだ仲だ。そんなヤマに再会したことで、僕は過去の記憶と向き合う事になった。



ある日あれは僕が小学4年生の頃。ヤマと2人で帰っていた所に突然、何かが僕の頭にぶつかった。手を頭に当てると手のひらが血だらけになった。


何かがぶつかった方を見ると6年生が笑っていた。

彼らが投げた石が僕の頭に当たったのだ。

その瞬間ヤマが6年生の方に走り出した。


ヤマはあっという間に6年生を取り押さえてしまった。


「石投げたひとは誰?」


6年生は黙り込む。でも沈黙は許さない。


「もう一度聞くけど誰が石投げたわけ?」


ヤマが一人を殴ろうとすると6年生の1人が指をさす。


「そっか君がテツに石を投げたんだね。君の家に今から行こうか」


ヤマはその6年生に自宅まで案内させる。

玄関から6年生のお母さんが出てくるとヤマは旧に泣き出す。


「お兄ちゃん達に石をぶつけられたんです。それがテツにぶつかって、僕はテツが死んじゃうと思って…頭から血が出てるし、ぶつけたお兄ちゃんは逃げようとするし…。警察に行ったらいいのか救急車を呼んだらいいのかどうしていいか分らないんです。お金もないし。」


6年生のお母さんは急に青ざめる。


「すぐに病院に連れて行くわ。タ、タクシーすぐに呼ぶわ。」


明らかに動揺している雰囲気だった。


病院に着くと幸い僕の怪我は血は出ていたものの軽傷で簡単な処置で済んだ。


6年生が病室から出てきた僕に泣きながら謝る。


「ほんとうにごめんなさい。」


お母さんも目に涙を浮かべながら


「テツくん本当にごめんなさい。後日お母さんにも謝りに行かせてもらうわ。」


「あの僕は大丈夫です。」

子供ながらに何故か罪悪感と安心させてあげなきゃと思った。


後日、6年生とお母さんが自宅にお菓子を持って謝りにきた。それをヤマに話すと、


「これであいつら6年生も反省するだろ」


その後ヤマは中学受験で渋谷にある学校に入学した。

そこからは会う事は少なくなった。



「テツ久しぶりだな。それにしてもテツなんか雰囲気大人っぽくなった?野球まだやってんのか?」


「いや実は辞めたんだ」


「そんなに髪の長い高校球児はまあいねーわな。まあいいんじゃね?ナオも久しぶりだね。もしかして二人付き合ってんの?」


「ヤマ君久しぶりだね。実はさっきから付き合ってるんだよ」


「そっかーテツとナオが付き合ったのか!なんか嬉しいな」


ヤマは小学生の時と全然変わんない。この変化の無さに少し憧れと嫉妬を覚える。


「テツ、またゆっくり今度話そうぜ。また連絡するわ。ナオもまたな」


隣にいたヒトミが口を開く。

「テツ、ナオ泣かせたら私がお前を殴るからな。」


そうだ。そういえばコイツめっちゃ口悪かった。

「そんな事するわけねーだろ。」


「じゃあ今すぐ私に誓え。ナオを泣かせるようなことは絶対しませんと」


「なんでヒトミに誓うんだよ」


「それはナオが私の大切な友達だからに決まってんじゃん。テツと付き合うのも本当は許していない」


「ちょっとヒトミいい加減にして!テツもう行くよ」

ナオがヒトミを嗜める。


こうして僕とナオは新しい日常に踏み出していくのだった。

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