第2話 異世界の映画館
オレだ。異世界からお前らの世界に連れて来られた転移者だ。
あの後、結局捕まって連れ戻されちまった。
まあ、職も住む所もないんじゃハナからどうにもならなかったんだがな……
だが、やっぱりコッチの世界は落ち着かない。確かに食いっぱぐれることはないが……四六時中監視されてるのはいい気分じゃあないからな。
ん? 今日か? 今日は映画館に来ている。
本日封を切られた全米No.1の話題の映画を見に来た。自分で背中も洗えんような筋肉ムキムキのヒーローを演じる俳優はオレの世界でも人気の俳優だ。
なんでも、オレの好奇心や興奮するポイントがコチラの世界と一緒なのかどうかをテストする為らしいが……
ふんっ……そんなもの人それぞれだろうに。意味があるとは思えんな。まあ、そうやって一つ一つ可能性を辿って行くのがコイツらの仕事なんだろうが……
「おい。行くぞ」
オレの監視役の男が声をかけてきた。
「野郎と二人で映画を見て、「楽しかったね」ってなると思うか?」
オレは監視役の男に皮肉をぶつけた。
「知るか。オレだってこの映画は息子と見に来ようと思ってたんだ。不本意なのはコチラも同じだ。さっさと行くぞ」
男は手ブラでもぎりをしている入口へ向かう。
「ちょ、ちょっと待て!」
「なんだ?」
「ポップコーンと飲み物は? まさかコッチの世界じゃ、誰も買わないなんて言うんじゃないだろうな」
男は溜め息をつくと「見ろ」と他の客をアゴで指す。
「買ってる人がいるだろ。むしろそっちの世界じゃ買わないと観れないのか?」
「いや。人それぞれだ。オレは絶対に買う。ちょっと待ってろ」
売店でポップコーンとホットコーヒーを買い。男の所へ戻る。買った時にポップコーンを一つ口に放り込んでみたが……映画館のポップコーンが美味いのはコッチの世界でも同じようだな。
「待たせたな。行くぞ」
男は入口で店員に二人分のチケットを渡す。
チケットを受け取った女性店員はキレイな女性だ。特に親しげでもない男が、二人で映画を観に来ているこの状況が彼女の目にはどう写っているのだろうか。
入口を通り抜けるとドアがズラリと並び、その前にあるモニターに上映される映画のポスターが映し出されている。
題名はたしか……『ラスト・バイオレンスヒーロー2』だったか……
ラストやファイナルの意味とは、これいかに……となるのは、どこの世界でも変わらないようだ。
さて。監視付きとはいえ久々の娯楽だ。堪能させてもらおうか。
ポップコーンを持つ手でドアを押す。
が……開かない。
「む。なんだ。開かないぞ」
もう少し強めに押してみる。動くことは動く……鍵をかけてる感じではない。これは……単純にドアが重いのか!?
「お、おい。ドアが開かないぞ。ふぬ! ふぬぬぬぬ!」
「大袈裟なヤツだ。映画館のドアは重いからな。ん……ほら。行け」
監視役の男はドアに手を添え肩で押すようにしてドアを開けた。
「ち、違う……」
「なにがだ?」
「オ、オレの世界の映画館のドアはこんなに重くなかった……」
「ああ。そうなのか。だが、私達が知りたいのはそんな些細な違いじゃなくてだな……」
「なんだ!? なんでドアがこんなに重いんだ!?」
「ん? いや……それは音が漏れないように防音の扉にしてるからだろう。じゃあ、なにか? お前の世界では通路に音がダダ漏れなのか?」
「ああ。そうだ。通路には音が聞こえてくる。だが、それがどうした?」
「なんだと?」
「オレはポップコーンとコーヒーを持ってるんだ! いいか!? ポップコーンとコーヒーをだ! 山盛りのポップコーンに熱々のコーヒーをだ! そんなもので両手が塞がってる人間にこんな重いドアを開けろだと? ふざけるな!」
オレは持っていたポップコーンとコーヒーを監視役の男に投げつけると出口へと駆け出す。
「お、おい! ちょっと待て! どうでもいい! どうでもいいじゃないか! そんなこと!」
オレは走る。
こんな狂った世界はもうたくさんだ……
いいか! よく聞け!
お前ら全員イカれてやがるぜ!!
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