第2話 黒田久志の悩み

ピピピッ!!ピピピッ!!ピピピッ!!


午前8時、けたたましい音で目覚める夏休み1日目。


眠い…。あと、30分だけ寝よう。


8時16分


「久志!!起きなさい!!11時から塾でしょ?!9時からは予習しないとダメなのに…いつまで寝るつもり???」


僕の部屋を開けて怒鳴ってきたのは母さんだった。


「ごめん…」


「はぁ…早く準備しなさい。」


「ごめんなさい」


僕は謝ることしかできずに、朝の用意をすることにした。


今日の朝食は、白いご飯を主食に、みそ汁、焼き魚、納豆、海苔、お漬け物などを組み合わせたものだった。手間暇かけてんだな。


「…いただきます。」


「美味しい?」

母さんはさっきの態度と一変して、笑みを浮かべて聞いてくる。

「うん。」


美味しい?と聞かれたら、はいしか言えないじゃないか。


「…夏休み、友達と遊びに行きたい。数時間だけ」


僕はもしかしたら許可してくれると思い、聞いてみた。


「なんで?」

母さんは冷たい目線を向けてくる。


「…友達と中学最後の思い出作りをしたい」  


「はあ?思い出?…そんなのなんて高校入ってからでもできるじゃない」 


「どうせ、高校入っても1年から大学入試の勉強させるんだろ?」


「五月蝿いわね!!そりゃそうよ!!」

母さんは顔色を変えて怒り出した。


「…わかったから。勉強してくるよ」


僕はまだ怒鳴りそうになってる母さんに背を向けて、自分の部屋に戻った。


「はぁ…やっぱ駄目だよなぁ。」


僕は誰もいない部屋に呟いた。


.


11時、少し憂鬱な気持ちで塾へ向かう。

今日は2時50分から数学と理科と社会の授業がある。


いつも通り12時まで1時間夏休みの宿題をして、お弁当を食べて、塾のワークして。

そこから夜の8時まで授業をする。


今日は理科の授業で寝ていたらいつの間にか部活終わりの野口がいた。


「おはよー」


彼は小声で挨拶をしてきた。


「おはよう。」


「(16)の 赤血球の中に含まれ、酸素や二酸化炭素を運ぶタンパク質は何か。…ここを黒田、答えてみろ」


「えっと…ヘモグロビン。」


よかった簡単な一問一答で。


8時、無事授業も終わっていつも通り、10時まで4人で自習。


今日は比較的難易度が高めの問題演習をする。

まだはっきりとは決まってないけれど、母さんはよく地元の進学校のA高校に行きなさいと言っている。

僕は隣の市のB高校に行きたいんだけど。

いずれにせよ、どちらも難易度の高い学校だから、こういう難易度の高い問題は解けないといけない。


10時


4人で夜の街を歩く。


「花火大会さ、母さんに言ってみたんだけど、逆ギレされたわ。」


僕は3人にそう伝えた。


「いやなんで言ったの?」

と、坂本がこちらを睨んだ。


「一応言った方が良いと思った」


「駄目って言われるのわかってるのになんで言っちゃうかなぁ」


僕は女子2人に責められた。


「まあまあ、落ち着けよ。黒田も素直だから親に言っちゃったんだろ?」

と、野口が宥めてくれたが、宥められていない気がする。


「素直ってなんだよ」


「もー!黒田は素直なんだからー!」

と、イジるように高山が言った。

「まあ、親に怒られようが勝手に塾サボればいいし。」

坂本も笑って言った。


しばらく歩いて、バイバイして、家に帰る。

またあの学力に囚われた母親の元へ戻らなければならないのかと思うと、憂鬱でしかない。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

烽火 天川いろは @Ama_Iro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ