烽火
天川いろは
第1話
夏休みが始まる中3の終業式。
僕は例年通り、登校して、校長の話を聞いて、通知表を貰って、…帰って塾に行く。
「黒田は成績どうだった?」
帰りの準備をしていると、聞いてきたのは同じ塾で同じクラスの野口だった。
「オール5と言いたいところだけど、体育は4だった」
この成績表を見たら、母さんはなんと言うのか。
「ははっ。いつも通りだな」
と、野口は爽やかな顔で笑った
「そう言う野口はどうだったんだよ」
「んえー?俺はー社会だけ4だった」
とぼけた顔で言った
「なんだよ、僕と同じじゃないか。」
「実は同じだった。」
野口は笑って言った
「…まあ、僕は塾に行くからさ。お前もちゃんと来いよ」
野口はサッカー部で、夏休みにある引退試合に向けて頑張っている所だ
「おう!サンキュ。また後で。」
彼は笑顔でそう言い、廊下で待ってた他クラスのサッカー部の友達の元へ向かった。
さて、僕も塾に行きますか。
.
塾に着くと、まずは自習室へ行き、母さんに作ってもらった弁当を食べる。
温かいご飯が食べたい。これから毎日弁当か。うんざりしてくる。
こんなこと、母さんに言ったら、彼女はなんと言うだろうか。
お昼を食べて、まずは1時間、夏休みの課題に取り組む。
そして、その後塾のワークに取り組んで、4時半から授業が始まる。
.
最初の授業開始時間となったので、教室に移動し、準備する。
ちなみに、この塾のクラスは、S、A、B、Cの4クラスで編成されている。
僕と野口はSクラスだ。
「あ、黒田じゃん!おはよ〜」
「ああ、坂本か。おはよう」
坂本と言うのは、隣の中学の女子だ。
肩より下の長さのふわふわな茶髪、キュルっとした大きな二重の目に白い肌。学校ではモテモテらしい。
THE 高嶺の花と言いたい所だが、裏の性格はサバサバとしている。
しかしそれは僕や野口、高山という坂本と仲の良い女子の前でしか見せない一面だ。今は塾内で他の生徒もいるので、表の性格で通している
「黒田のとこも今日終業式?」
「そう。」
「そっか〜。私のとこもだよ」
「わっっっっっっ!!!!!!!!」
「うお!!!!!!!」
後ろから驚かしてきたのは、高山だ。
「おはよー莉音and黒田!!」
「波留おはよ〜」
「おはよ。高山、もう少し声量落とせ」
高山波留は私立中学に通っており、坂本莉音と違って元気で裏表のない元気な性格だ。
「あはは…ごめーん」
「さて、授業始めるぞー」
先生が入ってきて授業が始まった。国語の授業だ。
「この問題は入試に頻出するからマークしとけよ。」
国語の授業は、6時に終わった。
10分の休憩を挟み、次は数学が始まる。
.
「えー、(1)は解けないと入試突破は難しいぞ。しっかりと解けるようにしておくこと。」
…眠い。窓から入ってくる夏の眩しい夕焼けが、クーラーの温度と相まって眠気を誘う。
瞼が、閉じる…。
.
次に目を開けたときは、隣に部活終わりであろう野口が座って授業を受けていた。
7時40分…もうこんな時間か。授業も残り20分…
「おはよ、爆睡してたな」
野口が小声で話しかけてきた。
「普通に眠かった。全然ノート書けてねえや」
ノートには、数式がどんどん汚くなり挙げ句の果てにはミミズを書いている。
あーあ、自習室で今の授業の寝てた分取り返さないと。
.
8時。国語、数学と約3時間に渡る授業を受け、野口、高山、坂本と10時頃まで自習する。
「坂本、数学のノート見せてくんない?さっきの時間寝てたからさ」
「いいよ〜。字汚かったらごめんね。」
坂本はニッコリ笑ってノートを渡してくれた。
彼女のノートは綺麗にまとめられており、とても見やすかった。
野口は部活で参加していない分の授業を取り返す為に必死に勉強している。
高山は勉強するときは集中しており、理科の問題を解いていた。
坂本も自分で持ってきたワークを解いている。
こいつらを見てると、僕も必死にならんとなって思えるから、、良きライバルだと思っている。
.
「さて、帰りますかー!」
帰宅時刻になり、高山が僕たちに声をかけた。
「そうだな!俺も眠すぎて死にそう。」
野口は今にも眠ってしまいそうな顔でそう言った。
塾を出ると、外は真っ暗だった。
「あ"ー、やっと帰れる」
坂本は今は僕らしかいない為裏の性格が出ている。本当に、塾で見かける坂本とは正反対だ。
「お疲れー。」
僕はそう言っておいた。
4人で歩いていると、街の掲示板にこんなチラシが貼ってあった。
『今年も開催!花火大会2024!8月20日(火)』
僕は、僕らとは本当に無縁なものだと思った。
花火大会に行きたいと母さんに言ったらどんな顔をするだろうか。なんと言うだろうか。
僕は簡単に想像がついた。
「花火大会かぁ。」
野口は行きたいけど行けない、複雑な顔だった。
「…花火大会、行こうよ!」
無言を破ったのは高山だった。
「私も行きたい」
坂本もそう言った
「いや、無理じゃないか?僕らは毎日塾があるんだ。」
それに、花火大会に行くと言えば僕の母さんはとてつもなく起こるんじゃないか。
「そうだよ。来年に行くべきじゃない?」
野口もそう言った。
「…なら、みんなは中学生最後の夏をこんな塾まみれで過ごして良いの?今年はお盆もほぼ休みなしで塾。うちらこんな勉強してるのにさ、なんで1日でも、花火が上がるのたった数時間も休むことが許されないの?」
坂本はそう言う。
「そうは言っても親や先生にはどう言うんだよ」
僕のこの3人の母親もかなり厳しい
「そんなの言わなくて良いよ!怒られるときはみんなで怒られよ!私は…、
今年の夏は、最後の夏は、花火が見たい!」
高山が笑顔でそう言った。
野口の顔を見ると、呆れてるような、でもちょっと嬉しそうな顔をしていた。
僕も、高山と坂本には敵わないと思った。
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