第6話 名前のないソフビ

未來が初めて作ったソフビは、粗削りで未完成な姿だったが、未來にとってそれは誇らしい作品だった。蝶の羽根の部分はまだぎこちなく、ギロチンの刃も理想の形には遠い。それでも、彼が一から作り上げた証だった。


家に帰り、未來は作業机にそのソフビを置いた。窓から差し込む夕日が、その不完全な形を柔らかく照らしていた。


「名前をつけよう」

未來は小さく呟いた。雑誌で見た「ギロ子」に憧れて作ったこのソフビだが、それはあくまで練習作品であり、ギロ子そのものではない。それでも、自分だけの名前をつけてあげたいと思った。


「でも、どんな名前がいいんだろう…」

未來は頭を悩ませた。自分が思い描いている理想のギロ子には、まだ遠い。でも、このソフビには自分の最初の努力が詰まっている。


しばらく考えた末、未來はそのソフビを「ヒナギロ」と名付けることにした。ギロ子の「ヒナ」、つまり未完成の姿を象徴する名前だ。


「ヒナギロ、よろしくな」

未來は小さな声で話しかけ、ぎこちない笑顔を浮かべた。


中田さんの提案


次の日、未來は完成した「ヒナギロ」を持って中田さんの教室を訪れた。

「未來、それが君の初めてのソフビか?」

中田さんが目を細めて尋ねる。


未來は少し恥ずかしそうに頷き、ヒナギロを差し出した。中田さんはそれを手に取り、じっくりと眺めた。

「なるほど、不格好だけど悪くないじゃないか。最初はこれで十分だよ。ここからどう進化させるかが大事なんだ」


中田さんはヒナギロを机に置き、提案した。

「この子を教室で飾ってみないか?来る人たちに見てもらえば、色々な意見が聞けるだろう。それが次の作品作りのヒントになるかもしれない」


未來は驚き、迷った。自分の不格好な作品を人に見せるのは恥ずかしい気持ちがあったが、中田さんの提案にどこかワクワクする気持ちもあった。


「…お願いします」

未來は少し勇気を出して答えた。


ヒナギロが繋ぐもの


ヒナギロは教室の棚に飾られ、訪れる人々の目に触れることになった。最初は誰にも気づかれないと思っていたが、次第に興味を持つ人が現れ始めた。


「これ、誰が作ったの?面白い形だね」

「不気味だけど、どこか愛嬌があるな」


その言葉を聞くたびに、未來は心の中で小さな自信を感じた。自分の作品が、誰かの目に留まり、何かを感じさせる。これが創作の力なのかもしれないと、初めて実感した。


「もっといいものを作りたい。次は、本物のギロ子を」

未來の中に、新たな目標が芽生えていた。ヒナギロがそのきっかけとなり、彼の旅路は少しずつ広がっていく。


ギロ子への道はまだ遠い。しかし、未來の手は止まらない。彼の夢は、今日も形になり続けている。

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