第5話 初めての作品

翌日、未來は中田さんの教室に早めに到着した。手には昨日作ったシリコン型を大事に抱えている。今日はいよいよその型を使って、初めてのソフビを作る日だった。


「未來、準備はいいか?」

中田さんが笑顔で声をかけた。未來は少し緊張した様子で頷く。


中田さんが取り出したのはソフビ用の液状の塩化ビニールだった。

「これを型に流し込んでいくんだ。ただ、温度や時間には注意が必要だ。焦ると失敗するから、ゆっくりな」


未來は慎重に液体を型に注ぎ込んだ。溢れないように気をつけながらも、手が震える。

「大丈夫だよ、落ち着いて。初めてはみんな緊張するものさ」

中田さんの言葉に少しだけ安心しながら作業を続けた。


型に液体を注ぎ終えると、今度は加熱の工程だ。中田さんが準備したオーブンに型を入れ、一定時間温める。未來はその間、じっとオーブンを見つめながら心の中で祈った。


「うまくできるかな…」

失敗したらどうしようという不安と、完成品を見たいという期待が入り混じる。


時間が経ち、オーブンから型を取り出すと、型を慎重に開ける。中田さんが手を添えながらゆっくりと取り外すと、中から未來の初めてのソフビが現れた。


それは粗削りで、完璧にはほど遠い仕上がりだった。蝶の羽根は少し歪み、表面も滑らかではない。それでも、未來にとっては紛れもなく「自分の作品」だった。


「どうだ、未來?君が作ったソフビだよ」

中田さんが声をかけると、未來はしばらくそのソフビを見つめてから、小さく微笑んだ。


「…不格好だけど、嬉しいです。これが自分の最初の一体だから」

未來の声は少し震えていたが、その目は輝いていた。


「そうだ、それが大事なんだ。どんなに不格好でも、最初の一歩を踏み出したことが一番大事だよ」

中田さんの言葉に未來は大きく頷いた。


その日の夜、未來は家に帰り、自分の作ったソフビをじっと見つめていた。机の上に置かれたそれは、未來にとって「夢の形」そのものだった。


「次はもっといいものを作ろう。ギロ子を完成させるために」

未來の胸には、新たな決意が芽生えていた。


ギロ子への道のりは、まだ始まったばかり。だが、未來の一歩一歩が確実にその未来を形作っていく。

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