第3話 師匠との出会い

中田さんの模型教室は、街の商店街にある小さなスペースだった。入り口には手作りの看板が掲げられており、そこには「模型・造形クラブ」と書かれている。未來は少し緊張しながら、その扉を押した。


「お、来たね!」

中田さんが笑顔で迎えた。教室の中には、所狭しと並ぶ工具や模型のパーツ、色とりどりの塗料が目に飛び込んできた。


「ここが君の新しい練習場だよ。遠慮しないで、好きに使ってくれていいからな」

中田さんは気さくな口調で言い、未來に工具の使い方を教え始めた。ニッパーやヤスリ、塗装用のエアブラシ――未來にとって全てが新鮮だった。


「何でもいい。まずは手を動かしてみるんだ」

中田さんの言葉に従い、未來は壊れたフィギュアを削ったり、パーツを組み合わせたりして試行錯誤を始めた。手を動かしていると、不思議と頭の中が静かになり、心が落ち着くのを感じた。


その日の夜、中田さんは棚から一冊の古びた本を取り出して未來に渡した。

「これは、昔のソフビ制作の基本が載っている本だ。いろんなテクニックが書いてあるけど、大事なのは“自分らしさ”だよ。技術なんてあとからついてくる」


未來は家に帰ると、その本を夢中で読み込んだ。ポリパテの扱い方、型取りの手順、塗装のコツ――どれも難しそうだったが、未知の世界への扉を開く感覚にワクワクしていた。


次の日から、未來は毎日のように中田さんの教室に通うようになった。中田さんは未來の作業を見守りながら、アドバイスをくれる。時には厳しい指摘もあったが、未來はその度に改善点を探し、少しずつ上達していった。


ある日、中田さんは真剣な表情で言った。

「未來、君のアイデアには面白いものがある。でも、その“ギロ子”って名前に込めた思いは何なんだ?」


未來は少し考え込み、答えた。

「ギロ子は…怖いものと綺麗なもの、両方を持ってる。それが、自分に似てる気がするんです。怖がられることもあるけど、誰かに見てもらえたら…そんな風に思ってます」


中田さんは目を細めて頷いた。

「なるほどな。それなら、もっとその気持ちを形にしてみよう。ギロ子を作ることで、君の中の世界がどんどん広がっていくと思うぞ」


未來は再び作業机に向かい、ギロ子のデザインに取り組み始めた。蝶の羽根の繊細さとギロチンの鋭さを、どのように融合させるか。その答えを探し続ける未來の目には、新しい決意が宿っていた。


ギロ子が完成する日はまだ遠い。けれど、未來の旅は確実に進んでいた。

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