第2話 最初の挑戦
未來はその日も作業机に向かい、雑誌で見た「ギロ子」を思い浮かべながらスケッチを繰り返していた。蝶の羽根、ギロチンの鋭さ、不気味さと美しさを両立させるデザイン。何度描き直しても、雑誌のあの写真のような完成度には到底届かない。
「やっぱり難しいな…」
未來はため息をつき、鉛筆を机に置いた。
それでも、何かを作りたいという衝動は収まらない。未來は家の奥にある物置部屋に向かった。父が修理に使っていた接着剤や塗料、壊れたおもちゃの部品が無造作に置かれている。
「これ、使えるかもしれない…」
未來は壊れたロボットの腕や、捨てられたフィギュアの頭を拾い集めた。それらを作業机に並べると、早速手を動かし始める。
プラスチックの部品をカッターで切り、接着剤で繋げる。何度も失敗しては作り直し、夜が更けるのも忘れて没頭した。
翌朝、母が店の準備をしていると、未來の机の上に奇妙なオブジェが置かれているのを見つけた。それは蝶の羽根を模したプラスチック片がついた、不格好なフィギュアだった。
「未來、これ作ったの?」
母が声をかけると、未來は恥ずかしそうに頷いた。
「でも、全然ダメだ…こんなの、ギロ子みたいじゃない」
未來は肩を落とす。
母はその作品をじっと見つめた。たしかに雑誌で見た「ギロ子」とは比べ物にならない粗末なものだったが、未來が一晩中努力した跡が感じられる。
「いいじゃない。最初から完璧になんてできるわけないでしょ。でも、これが未來の最初の一歩なんだね」
その言葉に少し勇気をもらい、未來は再び机に向かった。失敗を恐れず手を動かすことが、自分を少しずつ変えていく気がした。
その日の午後、未來はおもちゃ屋に訪れた常連客の中年男性に声をかけられた。
「おや、何か新しいの作ってるのかい?」
未來が見せた拙い作品に、その男性は目を輝かせた。
「こういうのを作れるなんてすごいじゃないか。私も昔、模型を作っていたんだよ。よかったら一緒に作り方を考えてみるか?」
彼は地元で小さな模型教室を営む中田さんという人物だった。未來の初めての作品が、新たな出会いを引き寄せた瞬間だった。
「もっと作りたい…自分だけのソフビを」
未來の胸には、新しい情熱が生まれつつあった。彼の小さな挑戦は、これから始まる長い旅の序章だった。
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