俺のギロ子をよろしく!
星咲 紗和(ほしざき さわ)
第1話 ギロ子との出会い
未來は、おもちゃ屋のカウンターに肘をつき、外をぼんやりと眺めていた。
薄暗い店内には、所狭しと並んだソフビやフィギュアたち。父と母が手間暇かけて集めたコレクションだが、売り上げは芳しくない。それでも両親は、「好きなことを続けることが大事だ」と言い、店を守り続けていた。
「未來、これちょっと棚に並べておいて」
母が渡してきたのは、ビニール袋に包まれた新しいフィギュアだった。未來は小さくうなずき、それを受け取ると、慣れた手つきで商品棚に並べ始める。
店の片隅には、未來の小さな作業机がある。父が廃材で作ったその机には、未來が幼い頃に描いた落書きや、壊れたおもちゃの部品が散らばっていた。
未來は昔から手を動かすのが好きだった。複雑な指示や計画は苦手だが、何かを組み立てたり修理したりする時間は彼にとっての安らぎだった。
その日、未來は母が買ってきた雑誌を何気なく手に取った。普段は読まないおもちゃ関連の専門誌だったが、ページをめくった瞬間、彼の目はある一枚の写真に釘付けになった。
そこに映っていたのは、蝶の羽根を持つ不気味なギロチン型のソフビ。「これが…ソフビ?」未來は呟いた。
どこか異様で、不思議な美しさを持つその作品は、見る者を挑発するような存在感があった。名前は「ギロ子」と書かれている。製作者のコメントが小さく載っており、「恐怖と美しさの間にあるものを形にしました」と説明されていた。
未來の胸がざわざわと騒ぐ。
「こんなものを…自分で作れるのか?」
考えたこともなかった。けれど、心の奥底に眠っていた何かが動き出すのを感じた。
その夜、未來は作業机の上に紙を広げ、鉛筆を握った。
「自分だけのソフビを作るなら、どんな形にする?」
初めてのスケッチはぎこちなかったが、未來の中には確かな情熱が灯り始めていた。
こうして未來とソフビ、そして「ギロ子」との物語が幕を開けたのだった。
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