第2話 違和感
(初めまして?)
いくら十文字が普段無口で存在感の薄い男だとしても、昨日の今日で亜紀が自分の事を忘れている筈は無い。と、十文字は思った。
もしかして、からかっているのだろうか?それにしてはずいぶん
なんだか意味が分からないな……そんな困惑した表情を十文字がしていると、亜紀の隣に立っていた高橋がすぐに十文字の側に駆け寄り、亜紀には聴こえるか聴こえないかくらいの小さな音量でそっと囁いた。
「すみません。これには深い訳がございまして、後程その訳をお話しますので……」
訳とは何だろうか?まさか、誰かに監視されているとか……十文字は、そんな馬鹿な事がと思いながらも、自分達の近くに怪しい人物がいないかどうかキョロキョロと辺りを見回してみた。
「どうかしたんですか?、おじさん」
「おじさん!?」
いきなり亜紀に『おじさん』と云われ、思わず大きな声で聞き直してしまう十文字。そのリアクションに、亜紀は少し恐縮したように云い直した。
「……ごめんなさい……でも、なんて呼べば……」
その顔は、とても十文字の事をからかっているようには見えなかった。本当に十文字の事を知らない。とても申し訳無さそうに彼を見つめる亜紀に向かって、十文字は優しく微笑んで自己紹介をした。
「僕は、
* * *
時刻表の時間通りに来たバスに乗ると、三人はまた前後隣り合わせの席に座った。
バスが走り出すとすぐに亜紀は身を乗り出して、前に座っている十文字に質問をぶつけてきた。
「ねえ、十文字さん。十文字さんは会社でどんなロボットを造ってるんですか?」
(女の子でも、ロボットになんか興味があるんだな……)
自分の仕事に理解があり、興味を持ってもらえるというのは嬉しいものである。
十文字は、少し得意げに現在自分が関わっているロボット開発について、亜紀にも解るように丁寧に解説した。
「一概にロボットと云っても様々な種類があってね。生産工場で使われるような、単純作業を素早く正確に稼働する事に特化したロボット。災害現場に派遣されるような、人間が近付けない現場に赴き、危険な作業をするロボット。今僕が手掛けているのは、人間の言葉を理解し、子供や高齢者、病人なんかの話相手をするロボットだよ」
「へえーーーっ、スゴーーイ!」
亜紀は瞳を輝かせ、本当に十文字を尊敬しているといった表情をして彼を見つめた。
亜紀にそんな風に見つめられると十文字はなんだか恥ずかしい気持ちになったが、それでもとても嬉しかった。
「アタシもそんなロボットを造ってみたいなああーーっ。アタシでも造れるかなぁ?」
「もちろん、造れるさ! 僕が本格的にロボットの勉強を始めたのは、大学生になってからだ。だから、亜紀ちゃんが今からロボットの勉強を始めれば、必ずロボットを造れるようになるよ」
「そうかあーーー。じゃあ、とりあえず大学に行かなきゃだね? 」
「そうだね。その為には、今は学校の勉強を頑張るのが一番の近道かな」
我ながら上手くまとめたな……などと思っていると、バスは昨日亜紀達が降りた総合病院前の停留所に近付いて来た。
「亜紀ちゃん達は、ここで降りるんだよね?」
「そう。十文字さん、また明日もいっぱい話そうね」
「そうだね。また明日」
亜紀達がバスを降りるほんの少しだけ前に、亜紀の隣に座っていた高橋が慌てて自分のバッグの中からなにやら封書のような物を取り出し、それを十文字に手渡した。
「えっ、何ですかこれ?……」
「十文字さん。何も云わずにこれを受け取って下さい。降りてから亜紀のいない所でこれを読んで欲しいんです」
その時の高橋の顔は、凄く真剣な表情をしていた。それでいて声は囁くように小さい。十文字は、この封書が今朝、自分が亜紀と会った時のあの違和感のある接し方と何か深い関係があるのではないかと直感的に思った。
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