第9話 その後の顛末
「先生、入りますよ」
ノックもなくバターンと扉が開かれマリーリが姿を現した。
ヘイリーは呆れて嘆息する。
「もう少し静かに入ってこようね」
マリーリは、はーいと適当に返事をすると、ヘイリーの机の前に立った。
「先生、事の顛末を聞きましたか」
「いや、なにも」
ヘイリーの元を訪れる学生などマリーリくらいである。そのため学園内のことは新聞にでも載らない限り情報が入ってこないのだ。
「相変わらずですね。一応今回のことでメシーナ教授は他大学へ飛ばされたようです。ニースさんは今後裁判にかけられるようですよ」
「そうか」
フォード魔法大学はフォード家の人間たちによって教職員の人事が行われる。もちろん、外から入ってきたヘイリーには発言権はない。そして、能力面や人物像が多大に考慮されるため、今回のような事態もままあるのである。
メシーナ教授がなにを思いシャーディーとの逢瀬に身を焦がしていたかは本人に聞いてみないと分からない。そして教育としてのかたちとしてそこに愛やら欲やらが介在していいのかというのも判断が難しい問題である。
ただ今回、フォード魔法大学として、教員生徒間の恋愛関係が発端で事件が起こってしまったことから責任を取らせたということであろう。
メシーナ教授はそんな力の流れに攫われてしまったわけではあるが、それと引き換えに一人の学生が救われたのであれば致し方あるまい。
「そういえば、くだんの容疑をかけられた学生はあれからどうなったんだい?」
あの事件のあと、いつものようにオスはヘイリーに叫ぶようにいろいろとまくしたてた。内容はかいつまんでいえば敗北と次回は負けないという宣言である。
エイザンはそれを横目にすぐに帰ってしまった。だから彼のその後は全く知らないのである。
「今回、部長がニースさんについたこともあってサーカスサークルを辞めてしまったみたいですね。新しい所属先が見つかることを願うのみです」
マリーリは慈悲深い顔をする。その顔はまるで聖母のようである。
「なるほど。それで、ゼミは?」
間髪入れずに突っ込んだその言葉にマリーリは苦笑した。
「そうですよね。そこが一番気になりますよね。実はその子、まだ一年生なんですよ」
へっと思わず間抜けな声が漏れた。
「一年生・・・・・・。もしかして謀ったのかい?」
ヘイリーのじとっとした瞳にマリーリはさっと顔を背けた。
「わ、私はゼミに入っていないとしか言ってないですよー」
たしかにフォード魔法大学の一年生はゼミに所属していない。
しかしそれは、どこのゼミも始まっていないからである。
つまり、ヘイリーの認識、まだ所属するゼミが決まっていない二年生以上であるという認識とは異なるのである。
マリーリは聡い学生であるからきっと分かっててヘイリーを誘導したのだろう。てへへとはにかむ姿がなによりそれを証明している。
そんな顔を見て怒る気も失せてくる。
とはいえ、詰まるところでいえば
「はあ。結局、今回もゼミ生は増えないのか」
ヘイリーは天井を仰ぐと大きくため息をついた。
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