第4話 条件
「……今、何とおっしゃいましたか?」
「聞こえなかった?私に血を捧げて、私の眷属になって、と言ったのよ」
まじか、この女。
「吸血鬼になるとどうなります?」
「瞳が金色になって、犬歯が鋭くなる」
「外を歩けなくなりますよ」
「サングラスでもマスクでもなんなりとつかえば?このご時世だし」
カラーコンタクトもありね、と彼女は冗談めかして言った。
「いや、さすがにそれは・・・・・・」
何でもするとは言ったけど、さすがにこの後の未来全部を寄越せと言われるとは思わなかった。
「どうしたのよ。早く決断しなさい。そうすれば我々は血より濃い縁で結ばれた主従となり物語の守り手となれるのだから」
「最後に一ついいですか?」
「何?」
「どうして自分がその物語の守り手に相応しいと思ったんですか」
「本が好きなんでしょう?」
「ええ、まあ」
「いかにも曖昧な回答ね。読書をする人にとって本は大事なもの。貴方はとても本が好きそうに見えたから」
「自分はそんなに本を大事に扱っているとは思いませんが」
「でも、捨てたりしないでしょう?」
その通りだ。それに、提案も魅力的だった。どのみち、やりたい事が無いのだ。何の熱意もなく、だらだらと人としての生を送るよりも、きっぱり人としての生を諦めて、吸血鬼として、物語の守り手として生きる方が、私の性には合っているように思われる。しかし、その提案に乗るには自分のこれからの人間としての生を捨てることを意味した。この葛藤の結論はすぐこの場で出すことは、優柔不断な私にとって極めて困難である。
「迷っているのね。では致し方ない。貴方にに考える時間をあげるわ」
「時間、ですか?」
「そう。期限は一ヶ月。今日はちょうど六月六日だから七月七日に返事をして。そのときに断られたら貴方の眷属化はきっぱり諦めて生徒手帳を返してあげる。という感じでどうかしら?一月たって、もう一度ここに来なかったら私はこの手帳を持って警察に駆け込む」
「手帳が無いと忘れそうなんですが」
「スマホにでもメモしときなさい」
「はあ」
かくして私は吸血鬼の館から解放されたのであった。
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