第3話 ありえない現実
「なんか最近疲れてない? 大丈夫?」
会社のトイレで比較的仲の良い同僚に話かけられた時のことだ。彼女は私の顔を心配そうに覗き込む。
「……別に」
「そう? 最近の美咲ってなんかいつも悩んでいるってカンジだよ?」
「……」
「ホントに大丈夫?」
鏡の中に映った自分の顔を見ると確かに目の下にうっすらクマができていた。最近、彼からの連絡が極端に少なくなってきているからだ。
仕事が忙しくて疲れている、というので、会えなくても我慢していたが内心不安で仕方がなかった。
「最近、夜遅くまでテレビに観てたりしているから」
「そうなの?」
あいまいに笑いながら言い訳をして、目の下のクマをコンシーラーで隠す。彼女もそれ以上は深く追求してこなかった。
「そうそう、もう聞いた?」
「何を?」
女子トイレで繰り広げられる会社関連の噂話。
「取引先の落合さんの話! ほら、あの人うちの女子社員から結構人気あるじゃない?」
「ん?」
「ほら、美咲もずっと前に一緒に仕事していた落合さんよ!」
「あぁ」
――落合優斗。それは私の『彼』のことだ。
私の恋愛事情を何も知らない同僚は言葉を続ける。
「落合さん、今度は本社の方に転勤なんだって!」
「……えっ!?」
「私もさっき聞いたところだけど。もういなくなっちゃうんだって」
――知らなかった。聞かされてなかった。
「で、落合さんって『結婚』していたんだよ! みんな知らなかったって言ってる。知らなかったよね? 『単身赴任』でこっちに来てたらしいよ。あの人うちの会社でもかっこいいって結構人気あったしさ」
――ケ、ケッコン!? タ、タンシン……フニン!?
耳に入ってくる言葉の意味がよく理解できない。『単身赴任』のことだろうか。
「でさ、なんか春には『子供』も生まれるらしいよ。ちなみに奥さんはかなり美人らしいという噂。あたし達、勝手に独身だって思い込んでいたからショック受ける子いるんじゃない?」
――コ、コドモ……、『子供』の事?
動悸が酷くなり、喉が急速に乾き始めた。
――そうだ。彼と過ごす日々の中で本当はなんとなく気が付いていた。優斗さんはやはり既婚者であり、私達の関係は『不倫』だったのだ。
私は改めてここで『現実』を知った。
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