第9話 野球しろよ……
◇
野球というものは、最終回のツーアウトからドラマが生まれることだってある。
最後までわからない、この作品のハチャメチャさを物語る指標ともいえよう。
バナナボール部 VS チーム俺たちの明日はわからない。
ツーアウトランナー1・2塁の場面で回って来た、9番自称DHの俺は、打順的に打てない、守れない、走れない置物枠扱いであるが、運動部に所属した経験がない以上、どのポジションを押し付けられようが仕方のないこと。
いかにも打ちそうな雰囲気で打席に立ち、神主打法でゆったりと構える俺は、ここまでの打撃成績は併殺、併殺と二度にわたってチャンスを潰してきた。
唯一の得点は、ナギ姐のソロホームランのみ。
他は出塁、空振り、フライを捕球されてアウトになる残塁祭りで打低の様相を呈する。
一方のバナナボール部は、もはやパフォーマンス、エンタメ重視のトリッキーな戦術で惑わし、ここまでで4点取られている。
ピッチャーが分身して誰が球を投げてくるのかわからなかったり、トランポリンでジャンプをしながら投球する高低差といつくるかわからないタイミングを活かして翻弄したり、最終回に至っては球が燃えている……いや、そもそもこれ、野球なのか?
投球のたびにキャッチーはさながら護摩行じょうたいであるが、こちらも下手に振って自打球を浴びようものならバーベキュー。
おろしたての制服の替えが、すぐに利かない以上は下手に振れないって訳だ。
このままだと敗北必須であるが、どうしたものか……そもそもどうしてこうなったのか、説明が必要だよな?
食堂を出た俺たちは、新入生相手に自称部活動勧誘をする不審者たちをかわしながら帰路につこうとしていた。
校門を目指して近道の為、運動場を兼ねた広い校庭を突っ切ろうとしたときだ。
部活動の朝練があるなら、昼練もあるのだろうか?
野球部らしき生徒たちは、お揃いの黄色いユニフォームを着用し、ダイヤモンド上で個性的なパフォーマンスをしていたものだから、ついつい足を止めてしまい、視線が釘付けになった。
竹馬を履いているのか、身長はナギ姐を超える選手や、火を吹いたりジャグリングをする選手等など、野球というよりもさながら野球という名の大道芸フェスティバルのようだった。
「Oh! バナナボールね! 日本にもあるのね!」
自称留学生の日本語ペラペラなアメリカ人のジェニファーは、一応イメージを崩さないようにアメリカ人のような反応でどこか懐かしそうに目を輝かせ、契約上一応そういう反応をしないといけないのかどうかは知らないが、バナナボールというものが気になってしまったのが運の尽き。
バナナボールだけに、バナナの色に見立てたお揃いの野球のユニフォームを着た、野球という名の付く大道芸を行っている一団によって、あっと言う間に囲まれた俺たちは、興味半分ではあるが、しぶしぶ彼らの活動に付き合う強制仮入部という流れとなってしまった。
とりあえずそうだな……俺たちの中で、バナナボール経験者はいるか?……オッケイ、誰も挙手する訳ないよな?
それじゃあそうだね、バナナボールをやってみたい人は?……うん、聞くまでもないね?
俺もお前らと同じだよ————。
◇
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