第7話 呼び名







  クラスメイトから厨二病患者と認識された俺は、副担のグリーンティに『まおー』呼びだけはやめてくれと懇願するも、受け入れられることなく根負けしたことで風に乗り、噂は全校生徒にまで轟くのも時間の問題だ。


 前世で色々とやり過ぎた因果応報にしては、かなり優しい平和な世界だな?


 そりゃあ魔王を引退してからもダンジョンを爆破したり、ダンジョンで遭遇した他のパーティーとPVPで捕虜を獲得して戦力化したり、管理するギルドを元部下たちと武力で制圧したり、立入禁止区域を突破して裏ダンジョンの攻略に勤しんだ。


 裏ダンジョンに潜む深淵を目覚めさせてしまったことにより、危うくキューバ危機レベルのことをやらかしたものだから……3回目の人生で厨二病患者扱いされるぐらいなら優しすぎるって訳さ?


「ぶっ!……まおー……っすか。チーちゃん、親しみやすいあだ名でよかったっすね」


「カズサさん、まおーで笑うのはいいけど、チーちゃん呼びだけはやめてくれ」


 トラチヨという名前だけあって、女性名扱いされるのも仕方ないにしても……男心的にかわいい呼び名だけはやめて欲しい。


「チーちゃん? まおー、チーちゃんって呼ばれてるの!? とってもかわいいの! 私もチーちゃんって呼ぶの!」


「「「「「「「HAHAHA!」」」」」」」」


 案の定というのか、グリーンティまで食い付いてくるものだから、余計なことを言うんじゃねーよ!


「グリーンティ、かわいいのはわかるけど勘弁してくれ……カズサさん、グリーンティの前で余計なこと言うなよ?」


 カズサさんに向かって抗議をするもどこ吹く風で、隣に掛けるクソチビポメ柴に至っては、カザミだけに風見鶏そのものと化している無援護。


「まおートラチヨ、そらなんべんカズサちゃんに言うても聞いた試しなんてあらへんで?」


「まおーチーちゃんの言う通りっすよ、フォンさん」


「せやからな、ミドルネーム呼びせんでええから!」


「「「「「「「「HAHAHA!」」」」」」」」


 グリーンティもそうだが、カズサさんのマイペースに振り回されるのも相変わらず。


 初代カズサさん被害者の会に名を連ねるウィラと同じく、今回も諦めた方が良いらしい……あれ、そういえばカズサさん、肩書き呼びをすることもあったよな?


 ウィラは当初、ミドルネーム呼びされていたけれど、生徒会長になってからずっと『会長』と呼ばれていたと聞いたな?……ああ、これはいいアイデアを思い付いた。


「ウィラ、このままだと俺は、カズサさんによって厨二病患者でかわいいあだ名で呼ばれ続けることになる」


「せやな、ほんならうち、また生徒会長に立候補するからトラチヨもなんか委員会活動でもやればええんとちゃいますか?」


「ウィラ、お前が生徒会長やるってことはさ、あたしがまた書記長やれってことじゃないよな?」


「ナギぃ? そらあんたがおらんとうちな、好き放題出来ないやろ? せやからあんたも立候補や」


「姐さんはともかくっすけど、フォンさんは会長の方が呼びやすいっすね。そしたら私も生徒会監査に立候補するっす。会長がやり過ぎないように見張るっす」


 前前世のリトルビッチたちは、今回も同じことを繰り返すことが確定した様子。


 そうなると俺が生徒会に入り込む余地もなく、自称留学生の日本語ペラペラなアメリカ人に話を振るまでもなく、兄貴に目配せをして旗色を鮮明にしてもらおう。


「トラ、俺はパスだ。強いて言うなら体育祭実行委員会に入るかな」


「イナ先生がそっちにいくんやったら争わんで済みそうやな。せやけどナギ、あんたはうちのとこで書記長やらなあかんで?」


「ウィラ、別にダーリンがなにしようと勝手だけど、だからといってさ、あたしはダーリンといつも一緒がいいって訳でもないからさ」


「そげなこというてもナギ、あんた顔赤なっとるで?」


「「「「「「「「HAHAHA!」」」」」」」」


 ナギ姐さんは相変わらず素直じゃないと言うか、前世で数十年レベルで待っていただけに、今回は15年待ちだったから嬉しくてたまらないのか、兄貴の隣をガッチリとキープしているところが可愛らしいよな?


「ウィラお姉ちゃん、ナギお姉ちゃんが幸せならそれでいいと思うのー」


「テーちゃん……」「グリーンティ……」


「どうしたの? ナギお姉ちゃん、ウィラお姉ちゃん?」


 ナギ姐、ウィラが複雑そうな表情を浮かべながら、グリーンティに言いたいことがあるのはわかる。


 俺と兄貴、ナギ姐、ウィラ、カズサさん、ヒナコ、ジェニファーは高校一年生で、グリーンティは教師であることから答えはとてもシンプルだ。


「「紛らわしい(わ)!」」————。








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