第5話 カイコクシテクダサーイ







  入学式をすっ飛ばした初日は、各クラスでの自己紹介タイム、翌日からの新入生オリエンテーションの説明を受け、パンフレットを渡されれば昼を迎える前に解放される。


 前世で徳を積んで人間になった、元コボルトのチャゲ先生は魔王の側近、果ては大統領に出世したものだからか、時間配分の上手さはこの世界でも一級品であり、無駄な時間稼ぎをせずに解放してくれるのだから生徒たちの味方そのものではないか。


 おかげで昼時のチャイムが鳴る前、混み合う前のがらんどうとした食堂に足を運べるって訳さ?


 当然貸切状態、好きなものを注文して、好きな席に座れるものだからね。


 チャゲ先生曰く、これもオリエンテーションの一環と言い張るようなので特に問題ないだろうし、学食を堪能したい1年C組の生徒ほぼ全員が足を運んだ。


 もっとも、グループ構成というのか、即馴染んでいけるかどうかは性格次第だろう。


 広い食堂の各テーブルに小さなグループ、たまにボッチが点在する様子に、チャゲ先生、副担任である 鷹野 綾香(たかの あやか)先生の腕の見せ所だろう。


 運命のいたずらによって集まった俺たちは、当然固まるわけであり、キツネうどんのキツネマシマシで幸せの絶頂にあるドイツ系関西人のウィラ。


 案の定頼んでもいないのに、定食のご飯を特盛にされた身長191cmのナギ姐。


 購買部で買ったアンパンを頬張り、いつも半開きの目が、トロンと垂れてるカズサさん……ヤクやってる訳じゃないよな?


 確かにアンパンの上にケシの実は乗ってるけど、そもそもアンパン違いだし、食用だし、俺は信じていいんだよな?……おい、なにアンパンの袋でスースーと深呼吸してんだよ?


 まあいい、身長144cmのクソチビポメ柴は、「もっと食べなさい!」と食堂のおばちゃんからいっぱいおかずを盛られてちょっと不機嫌なご様子。


 恨むなら、またしても身長ガチャが据え置きだったことであろう……なお、ヒナコは普通に完食するが、当然身長になんら寄与すらしない。


 次だ、自称アメリカから来日した留学生、ジェニファー=ズザンネ・サマーフィールドは、まるでネズミーアニメのヒロインのような感じと言えば伝わるかな?


 前前世は米海兵隊員、前世は女神、今回は日本語ペラペラな自称アメリカ人の留学生って訳だ。


 場面を食堂に移して盛大に彼女の自己紹介をカットした理由についてだが、単にうるさい、それだけだ。


 教室に入るなり、俺たちの顔を見たときのリアクションは、終始ステレオタイプ的なオーバーアクションだった訳さ?


『Oh my gshs!? WOW!? WOOOW!?』


 ああ、気持ちはわかるが、こんな感じで90デシベル超えの叫び声をあげられたら、うるさいったらありゃしない訳でね、ジェニファーと同じくアメリカ出身のナギ姐に全部任せた。


 おかげで今はすっかり落ち着いている、ただでさえ声のデカいドイツ系関西人のウィラがいるんだから、このままでは違反点数2点、反則金6,000円で切符を切られるから騒音規制は必要だろ?


「Fooooooo!! キャプテン!! 日本のスチューデントは毎日こんなにおいしいものを食べてるの!? ズルいわ!」


 騒音規制については一旦諦めよう、落ち着いたかと思えばこれだが、ジェニファーのように海の向こうから来た人にとっては、とてもうらやましいらしいね。


『oh!? 箸が止まらないわ!!』なんて言いながら動画投稿してしまえよ? HAHAHA!————。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る