第4話 大人の事情と自己紹介
◇
この物語は既視感に満ちて溢れている。
筋骨隆々、茶髪で愛嬌のある犬系男子的な小兵の担任が、教室に入ってこちらを見るなり……急にきょどり出したのはなんでだろうね?
「「ぶふぉ!?」」
ウィラとナギ姐が盛大に吹き出し、件の担任の顔はみるみると困り果てた表情に様変わりした。
やっぱりそうだよな……前世では世話になったな、チャゲ。
「……はい、みなさんー、ご入学おめでとうございます。私は担任の……そうですね、チャゲ先生と呼んでくれると嬉しいですね。今日から3年間、いっぱい学んで最高の青春を満喫しましょう……ああ、誰かさんの前前世のように、4回留年するようなことがないように励んでくださいね」
やはりそうか、前世では世話になったけれど、今回お前が目上かよ。
それはいい……前世はよく喋るコボルト、後の大統領となった魔物が徳を積んだ結果、人間に生まれ変わったものの、チャゲ・ブラウン改め……あだ名で呼ぶように促した理由はなんだろう?
この物語ならではの作風的に、作者が日本語名を思い付かなかったか、無料で出来る姓名判断で良い結果が出るまで粘っているのだろう。
よって、徳を積んだ前世コボルトのチャゲは、今作でもチャゲって訳だ。
「……先生、ところでアスカは?」
この質問に対して彼は、新入生が何故それを知っているのかと言う疑問すら抱かず、ため息一つ吐いてからこう答えた。
「まお……失礼、君が何故それを知っているかは存じませんが、アスカなら産休ですよ。それよりも大人の事情で時間が押しているのですから、みなさん手短に自己紹介をお願いします」
マオ・ツァートンと言いかけたのか、それとも魔王様と言いかけたのか、この様子だとあとで俺は職員室、あるいは生徒指導室行きだろうな……ああ、もちろん前世で関わった全員集合でね? HAHAHA!
既に第一話で簡単な自己紹介を済ませた兄貴と俺は省略。
続いて何故かア行扱いのウィラの自己紹介と行こう。
「ウィラ・フォン=ノイマンや。うちドイツ系なんやけど、ウィラが名前やからな? ほんでな、なんでうちがア行扱いされとんねん? うちの名字はノイマンなんやけどな……偉いことしてくれましたな、これ誤植やらかしたんとちゃいますか? おかげで廊下側の席に座れるんやから休み時間が楽しみやな!」
「「「「「「HAHAHA!」」」」」」
ウィットに富んだウィラのジョークを笑えるのは、人生の周回を重ねた俺たちだからこそ理解できるものだろうか。
人生の重みとは裏腹に浮きまくっているって訳だ。
次は常に眠そうな目付きが特徴である、グンマー人のカズサさんの自己紹介はとても簡潔だった。
「小幡 上総(オバタ カズサ)っす。人間観察が趣味っす、よろしくっす」
人間観察の趣味が高じた情報通は、前前世で公安警察、前世で執政官として敏腕をふるっていた訳で、今作においてウィラ、ナギ姐、ヒナコと並んで馬鹿笑いを飛ばしていたぐらいなので、絶対に何かやったんじゃないかと思われるんだよな。
あとで色々と聞きたいことがあるけれど……正直なところ、前前世、前世でカズサさんに対して少し苦手と感じるところがあるんたよな……何故かって?
そりゃあなんていうのか、ぬるっと入り込んでくると言うのか、本心が見えない不気味さがあり、それでいてミステリアスなところが魅力的でもあるんだよね……ああ、話せば長くなるからさ、続きはまた気が向いたときにでもしよう。
「……風見 日向子(カザミ ヒナコ)。私のことは、チビとからかわなければ怒らないから……」
「ハーイ、チビ。今日の食堂の日替わりは?」
「チビじゃねーよ!! Siri でも食堂のSNSでもねえよこのボケ!!」
流石の狂犬ポメ柴らしくいい切り返しだ。
これ以上吠えられても困るので、おすわり、お手のご褒美は昼飯を奢ろう。
続いて身長191cmナギ姐。
「香坂 凪沙(コウサカ ナギサ)、あたしのことはナギと呼んでくれ。先に言っておくけど、あたしは見ての通りだからさ、席替えの時は神にでも祈ってくれ」
「「「「「「HAHAHA!」」」」」」
ああ、俺と兄貴は黒板よりもあんたの背中の方をご所望だ。
眺めがいいばかりか、隠れて睡眠時間を確保できて最高だからな!
さ、あとは以下略で適当に聞き流しておけばきっと英語がペラペラになることだろう。
大人の事情よろしく、各々の手短な自己紹介タイムは終わりを告げ、まだチャイムがなるには少々早いが……チャゲ先生、どうするんだい?
「はい、みなさんスマートな自己紹介をありがとうございます。おかげさまで副担任と留学生を紹介する時間が出来ました」
ああ、大人の事情ってそういうこと?
副担任はともかく、留学生もいるのか……またしてもこの作者、入学初日に色々と詰め込み過ぎではないかな?————。
◇
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