第7話 オルリア、パーティーに加入する
「……責任を取れ、だって?……すまんオルリア。悪いがお前の言っている意味が全く理解出来ないんだが」
そう言葉を返す自分の反応が気に入らないのか、オルリアが再び自分に捲くし立てる。
「な……何よ!今更逃げるって言うの!?無責任じゃないの!数年前にそっちの都合で私からいきなり何もかもを奪っておいて、突然ふらっと戻ってきたかと思えばいきなり簡単な事情だけを伝えてまたすぐにさようならって事?意味が分かんないわよ!男なら最後までしっかり自分のした事に責任を取りなさいよ!」
……随分と無茶な言い分である。ここだけ聞けば魔剣やオルリア自身への呪いのくだりをばっさり切り取っているため、第三者に誤解を招きかねない発言である。夜のお店の綺麗なお姉さんにならともかく、まさか魔族にこんな事を言われるとは想定外だった。
「そう言われてもなぁ……俺にもちゃんとこれからの目的ってものがあってだな……」
そう自分が言うと、オルリアがそこに興味を示したのか自分に聞いてくる。
「……目的?何よそれ。ちょっと詳しく聞かせなさいよ」
オルリアにそう言われ、簡単にではあるが自分が魔王を倒したその後、仕えるつもりであった王に自身の存在を疎まれて国を追われた事。それを機に旅の途中で手にした様々な武器や道具を必要とされる場所へ提供、あるいは元の場所へ返そうとしているという事、それに加えて己の終活のために安住の地を探している最中だという事を伝えた。ふんふんと話を聞いていたオルリアであったが、話を聞き終えた後におもむろに口を開いた。
「ふーん……なるほどね。人間も魔族も上の立場でも勘違いした馬鹿の存在って変わらないのね。ま、それはどうでもいいわ。それよりあんたのその旅、何か面白そうじゃないそれ。いいわ。しばらくあんたに付き合ってあげるわよ。一人より二人の方が何かと便利でしょ?」
……自分が呪いから解放したのだから面倒を見ろ、だと?オルリアの突然の申し出に一瞬絶句するものの、すぐに慌てて言葉を返す。
「いや、目的が目的な訳だし、俺は一人の方が何かと気楽で良いんだが……」
そう答えるものの、オルリアは全く引く様子がない。自分の言葉を遮るように会話を続ける。
「駄目よ。何と言われても私はあんたに付いていくからね。……あ、あんたには私の責任を取って貰わなきゃいけないんだからさ」
何やら面倒な事になったなと思いつつも、こうなったら簡単には引かないタイプである事を本能で悟る。思えば過去のパーティーの中にもこんな奴がいたなと思い出す。共通して言える事は、この手の連中には自分が何を言っても無駄なのである。言い争うだけ時間をただ浪費するだけなのだ。
……仕方ない。気の済むまではこいつに付き合ってやろうと気持ちを切り替える事にする。だが、人間である自分と旅を共にする以上、最低限の釘を刺しておかねばならない。
「はぁ……分かったよ。お前の言う俺の責任っていうのがよく分からんが、気の済むまでしばらくの間付き合ってやるさ。……だが、一つだけ約束してくれオルリア。俺と一緒にいる間、何があろうと人間に絶対に危害を加えないってな。お前が本当に俺に付いてくるというなら絶対にそれを守れ。いいな?もしもそれを破ればこの話はいつでも破談にするからな」
そう答えると途端に顔がぱあっと明るくなるオルリア。
「……よっし!物分かりが良いじゃないの。分かってるわよ。私だって今更義理立てする存在がいないのに人間と揉め事をわざわざ起こす気なんてさらさらないわよ。じゃあ、これで問題は解決した訳でしょ?さっそく次の行き先を教えなさいよ。私、人間の文化は中途半端にしか知らないから楽しみにしているんだから。自分のこの目で見たいものや食べたいものが沢山あるんだから!」
そう言って上機嫌になったオルリアをため息混じりに見て、こいつがこんなにも人間臭かったのかと思いつつも懐から手帳とペンを取り出す。初っ端から当初と大分内容が変わったものの、ひとまず『魔剣を元に戻す』という目的は一応無事に果たしたため、その項目に二重線を引く。
(さてと……次はどこに何をしに行く旅になるのかね)
そんな事を胸中で思う自分をよそにオルリアが自分に声をかけてくる。
「ねぇ、それで次はどこに行くつもりなのアイル?さっさと次の目的地に向かいましょうよ」
自分の知らない場所へ向かうのが待ちきれないといった様子でそわそわとしているオルリアを見て苦笑しながら言葉を返す。
「待てって。今、これからそれを決めるところなんだからさ」
そうオルリアに答えつつ地面に地図を広げる。地図を広げながら冷静に今の自分の状況を改めて実感して思わず笑ってしまう。
(……魔王を倒すために必死だったあの頃の俺からしてみたら、今の自分の状況は絶対理解出来ないだろうな。我ながら今も信じられないからな)
あくまで仮にとはいえ、魔王を倒した後にこうして再びパーティーを組む事になり、しかもその一人目のメンバーがまさか見た目は人間とはいえ魔族になるとは夢にも思わなかった。当時のパーティーのメンバーがこれを知ったら卒倒するか大激怒するかのどちらかだろう。
(……そういや、あいつらは元気にしているのかな。旅のついでにあいつらの故郷に立ち寄って挨拶するのも悪くないな。旅の行き先によってはそうしてみるか)
次の行き先を示すための骨を放り投げる前にふと思う。同時にこの自分の二週目となる旅のゴールは決して短くはならないだろう。そう思いながら海賊の骨を地図に向かって放り投げる。骨の先端が次の目的地となる大陸を示す。
「お、ここに落ちたか。えぇと……次の場所は……っと」
骨の示したその先は見覚えのある大陸を指していた。その大陸での出会いや出来事を思い出す。自分一人でも騒ぎになりそうだが、オルリアを同行したこの状態でそこに行けば間違いなく大騒動になるだろう。だが、余程の事がない限りは示された選択肢を変えるつもりは今の自分にはない。
(……やれやれ。よりにもよって今度はここか。これはまたひと悶着起こりそうだな。ま、その時はその時だ。今はただ流れに身を任せるとしようかね。それもまた俺の人生だ)
次の目的地を定め、骨と地図を袋にしまいながら思う。
どうやら自分の終活を兼ねた二度目の旅は、一筋縄ではいかないようである。
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