第6話 アイル、襲撃に遭う

「……よし、ようやくここまで戻ってきたな。あと少しだ」


 オルリアと別れ出口へと向かい、ようやく外の明かりが見えてきた。出口に向かって足を踏み出した時、何者かの気配を感じる。


(……この気配は……間違いなく魔族だな。それも複数。この様子だと向こうもこっちの気配に気付いているな。しかもこの付近にいるようなさっきまでの雑魚じゃねぇ。こりゃ、少し気合いを入れ直さないといけねぇな)


 先にこの狭いダンジョンから出なければ待ち伏せされる形となり、こちらが不利な状態で戦う事になる。そう思って一気に出口までの道を全力で駆け出した。


「よっ……と!」


 想像通り、ダンジョンから出たとほぼ同時に感じた気配ははっきりと殺気に変わり、空中から魔族の一撃が放たれた。寸前でそれを回避し、剣を抜いて追撃に備える。剣を構えながら瞬時に状況を確認する。そこには上空を旋回するように飛んでいる羽を生やした飛行種の魔族の姿があった。


(全部で三……いや、四体か。全員空を飛べる魔族っていうのは厄介だな。空中から一斉に波状攻撃を仕掛けられたら面倒な事になる)


 見たところオルリアの様に人語を解するタイプではなく、戦闘能力に特化した魔族のようだ。この辺りに存在する魔族ではないため、魔王亡き後己の本能のまま徘徊していた中で偶然この大陸に辿り着いたといったところだろう。


「幸い、この大陸にはほとんど人はいねぇ。ここで逃して下手に人の多い他の大陸に移動されて被害が出る前にこいつらをここで仕留めるしかねぇな。まずは……各個撃破だ!」


 剣を構え直し、最初の攻撃に備える。それと同時に魔族がまず一体自分に攻撃を仕掛けてくる。


「おらよっ!」


 魔族の鋭い爪での一撃を寸前で回避しながら片方の羽を斬り飛ばす。すかさず追撃を仕掛けてきたもう一体の魔族に向かって剣を構えて叫ぶ。


「『主たる偉大な王よ!その力を我に貸し与えん』!」


 そう叫ぶと同時、自分の構える『王者の剣』から放たれた光の刃が魔族の体を貫く。刃が直撃した魔族が絶命したのを確信し、間髪入れずに羽を斬り落とした魔族の首を剣で直接跳ね飛ばす。


(よし!これであと二体っ!)


 残る二体のうち一体がこちらに向かって飛び掛かってくるのを回避し、即座にカウンター気味に斬り返して魔族の胴体を左右に分断する。


「あと……一体!」


 これで終わりと自分が思ったところでまさかの誤算が生じた。てっきりこのまま自分に襲い掛かるものだと思っていた最後の魔族が予想外の行動に出た。殲滅された仲間を見て敵わないと悟ったのか、こちらにくるりと背を向け空中へと勢いよく羽ばたきだしたのだ。


「なっ……しまった!」


 咄嗟の事で反応が遅れる。不味い。このまま下手に遠くへ逃げられ、他の大陸へ移動されたらそこで被害が出る可能性がある。それだけは避けたいと思い、慌てて追撃を試みる。


(くそっ!しくじったっ!……それに、思っていたより動きが早いっ!)


 どうやら四体の中で、あの魔族が一番高位の存在だったらしく、先に仕留めた他の魔族より明らかに動きが俊敏だった。既に剣の光の刃では届かない距離のため、慌てつつも咄嗟に遠距離かつ高威力の魔法を放とうと剣を置き魔法の詠唱を始めようとしたその時、一つの影が自分の横をすり抜けた。


「なっ!?」


 影の主がその場で高々と空中に跳躍したかと思ったその瞬間、空にいた魔族を一撃のもとに切り伏せた。絶命の叫びをあげる事なく魔族の亡骸が地面にどさりと音を立てて落ち、少し遅れてその影の主も地面に着地する。


「お前は……オルリア!」


 影の主はなんとオルリアであった。剣を鞘に納めながらこちらにつかつかと歩いてくる。


「……あんた、前よりちょっと腕が落ちたんじゃない?以前のあんたならあの程度の連中、五体いようが十体いようが余裕だったでしょうに」


 少し自分への過大評価が過ぎるようだが、ここは素直に礼を返すことにする。


「……どうかな。とにかく助かったよオルリア。ありがとな。……てかお前、何でここにいる?もしかして付いてきたのか?」


 自分の問いにオルリアがしれっと答える。


「そうよ?何が悲しくてせっかく晴れて呪いが解けて自由の身になれたのにあんな薄暗くてジメジメした洞窟にいなきゃいけないのよ。あんたの目的はこの魔剣を持ち主か元の場所に返す事だったんでしょ?じゃ、これを私が持ち続けていれば問題はないじゃない」


 ……確かにそうだ。いや、そうではあるのだが人目につかない場所にその魔剣を置いておきたいという願いの部分はどうなのだと思いつつ、再びオルリアに問いかける。


「いや、それはまぁ……そうなんだけどな。……まぁお前の手元にあるなら人間だろうが魔族だろうがそうそう手出しは出来ないからそれは構わないさ。……で、それならお前はその魔剣を持ってこれからどうするつもりだ?……お前の返答によっては無視出来ない事になるんだが」


 そう言ってオルリアの顔をじっと見つめる。すると何故か顔をぷいっと背けながらオルリアが答える。


「そ、そんな間近でまじまじと見つめないでよ!……えぇと……そ、そう!せ、責任よ!責任を取りなしゃい!」


 そう言って指先をびしっと突き出し自分に向かって言うオルリア。本人はクールに言い放ったつもりなのだろうが顔は紅潮しているし、肝心の台詞を盛大に噛んでいるため全く様になっていない。というか、そもそも彼女の言う責任という意味が全く分からない。


「……は?責任?」


 思わず自分がそう口にすると、オルリアがこちらに向かって捲し立てる。


「そ、そうよ!私を殺さないで下手に解放して生き残らせたのはあんたでしょ?だからあんたは私のこれからの面倒を見る責任があるのよ!」


 そう言い放つオルリアに、開いた口がしばらく塞がらなかった。

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