第5話 目的達成、オルリアを解放する
(準備は完璧。手順もこれで良いはずだ。……あとは発動させるだけだ)
魔力に呼応するように杖が光りだす。それを確認して叫ぶ。
「……我が呼び声に応え、力を貸し与えん!『
発動の言葉を放ったその瞬間、自分が地面に置いた魔力石を軸にして撒いた聖水によって描かれた魔法陣から光が放たれ魔力の結界が現れる。その中心に立って杖をオルリアに向かって構えてもう一度大声で叫ぶ。
「杖よ!我が声に従い、不浄の呪いを祓えっ!」
次の瞬間、杖の先端が砕け散ると同時に眩しい光が放たれ辺りを照らす。その光が呪いを浄化し、石と化していたオルリアの体が徐々に色を取り戻していく。同時に壁に埋め込まれていたオルリアの四肢の先が徐々に形を取り戻していく。程なくしてオルリアの体が壁から押し出される形で解放される。
「えっ……!?きゃっ!」
「おっと。あんまり急に動くなよ。少し待てばすぐに手足の感覚は戻るだろうからさ」
急に石化の呪いから解放され、四肢の自由が効かずに倒れこみそうになるオルリアを抱き抱える形で優しく受け止める。そのまま体勢を落ち着かせてオルリアを自分の足で立たせる頃には周囲の光も収まり、辺りに静寂が戻る。
「嘘……体が自由に動く……あんた、一体何したのよ?」
解放された自分の体を確認するように自分の腕を動かしたり、足でゆっくり地面を踏み締めながらオルリアがこちらに尋ねてくる。
「ん?……あぁ、これの事か?昔旅先で手に入れた石化解除の魔法の杖だよ。たちの悪いダークエルフに石化された人間の呪いを解くために使った事があってな。もしかしたら半分人間のお前にも効果があるかと思って試してみたんだが、どうやら大成功だったみたいだな」
それを聞いて、ぽかんと口を開けたままのオルリアにそのまま会話を続ける。
「だが魔王自身、もしくはその側近に近いクラスの奴にかけられた呪いだったらもしかしたらこの杖の効力だけじゃ不十分かもしれねぇ。そう思って
杖の先端に施された装飾部分が粉々になった杖を見る。こうなってはもはや修復は不可能だろう。まぁ他に使い道も特になかったためこちらは問題ない。
どちらかといえば何かと用途も多く高値で取引される『魔力石』と『魔法の聖水』のストックをほぼ全て使い切った方が自分的には厳しいが、オルリアを救うための必要経費と思えば決して高くはないだろう。そんな事を思っていると、オルリアが声をかけてきた。
「……どうして?わざわざそんな貴重な道具を使ってまで何で私を助けたの?あんた……ううん、アイルならそんな事をしなくてもあの状態の私を殺すくらいなら簡単に出来たでしょ?それなのに、何で……」
オルリアの質問にため息をついてから答える。
「はぁ……お前さ、俺っていうか勇者を何だと思ってる?魔族と見れば有無を言わさず殺す殺戮者だとでも言うのか?始末に値する理由があれば迷わずそうするが、少なくとも今のお前をそうする理由が俺にはねぇよ。元々お前、魔剣を所持してそれを守るって役目をここで守っていた訳だろ?他の魔族みたいに人間を無意味に殺したり虐げたりしている奴らと同じなら話は別だけどな」
無言のままのオルリアに、さらに続けて言う。
「それに、昔似たような事を言ったと思うけど外見が醜悪な魔物ならともかく、見た目だけならただの綺麗な女の子にしか見えねぇお前さんにそんな事をしたら俺のほうが寝覚めが悪くてこれからずっと引きずっちまうっての」
そこまで言うとオルリアが慌てたように口を開く。
「き、きっ!……き、綺麗とかいきなり口にするんじゃないわよ!そ、それもそんなにさらっと!」
何やら騒ぎながらオルリアが言うが、すぐに冷静さを取り戻して再び口を開く。
「はぁ……。まぁいいわ。……で?この後私をどうする訳?」
オルリアの言葉に答える前に、皮袋から目当ての物を取り出しながら答える。
「あ?別にどうもしねぇよ。あ、あとこれお前に返しとくな」
そう言って鞘に収まった魔剣をオルリアに向かって放り投げる。
「えっ!?ちょ……ちょっと!これって魔剣じゃないの!ど、どういう事なのよアイル!」
戸惑いながらも魔剣を受け取りながら慌てふためくオルリアに会話を続ける。
「ん?どういう事もなにも、そいつはもう魔王も倒したし俺にはもう不要の物だからだよ。いくら俺でもそいつは普段使いするには俺には荷が重いからな。かといって下手に人の目に触れるところに置く訳にもいかねぇし、元の所に返しに行こうと思っただけだよ。いざ来てみればこんな事になっていたのは流石に予想外だったけどな。ま、そう考えたら結果的に来て良かったけどな」
そう言って立ち上がり、無言のままのオルリアに声をかける。
「ま、要はそういう事だ。俺はそいつをここに戻すか封印するつもりで来たけど、お前がいるならかつての持ち主であるお前の元に返すのが一番良いだろ。お前の手元にあれば良からぬ考えを持つ連中もそうそう手出しは出来ないと思うからな。お前はそいつを元々自由自在に使いこなしていた訳だからな」
そこで一旦言葉を切って、オルリアの目を見て話を続ける。
「もちろんお前が魔王を慕い、忠義を誓うタイプの魔族なら返すつもりはなかったが、さっきの口ぶりだとそれも無さそうだからな。そいつがありゃここらでお前に敵う魔族はまずいないだろうから、これでお前の地位はこの後磐石だろ。だが、それで再び力を得たとばかりに悪用して人を襲うような事だけは考えるなよ?……その時は、今度こそお前を斬らなきゃいけなくなるからな」
剣を抱えたまま未だ沈黙を守るオルリアに、最後にもう一言だけ声をかける。
「じゃあ、目的も果たしたし俺はそろそろ行くぜ。せっかく拾った命、大事にしろよ」
そう言って魔剣を抱え立ち尽くしたままのオルリアに背を向け、ダンジョンの出口に向かって歩き出した。
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