35話 決戦、その前に
「黒幕にとって、送還魔法の失敗とは何か?」
コツコツと現在地点、天界の禁則地に繋がる廊下を歩きながら後ろから着いてくる一向に語り掛ける。
「最も安全に自分の身に災難が降りかかる事が無く、元の地球に帰る事だ。それ以外は失敗の何物でもない」
だが、安全な帰還は実質不可能だ。だからこそ、黒幕は今なおもその原因が分からずに送還魔法の為の魔力を練っている。何故、創世の頃からどれだけ研鑽してもダメなのか?単純だ。
『だが、それは無理だ』
自分とガーネット様の言葉が重なる。神すらも断言するのは何故か?
「地球から来た転生者、自分とカエデちゃん、そしてクロードの検証チームの転移者達ならわかると思う」
「パラレルワールド説ですね」
代表して言葉を発したクロードの言葉に頷く。地球と言う存在は1つではない。もしかしたらあったかもしれないという地球はこの世界から見ると無数にある。言うなれば、彼、あるいは彼女の地球は無限大の砂浜のたった1粒の砂であると言う事だ。それを探し当てる所から始めねばならない。
「無限に魔力が供給され、その魔力を練りつつも必死こいて探しているだろう」
「ですが、送還の魔法は行使されていない。いえ、今もなおも出来ないと言う事はそういう事ですね?」
ガーネット様の言葉に頷く。つまり、まだ黒幕の地球は見つかっていない。だからこそ、今止めないといけない。何故か?禁足地に繋がる扉の前に立ち話す。
「です。だからこそ、今すぐに止めなければならない」
「何故?」
正妻である王女様の言葉を受けて続ける。
「彼、あるいは彼女の地球には大送還魔法は完成したら帰れるかもしれない」
「っ?!そういう事か?!」
魔王様の顔が驚愕一色になる。そして、続ける言葉が現在の最大の問題である。
「ここでパラレルワールド説がネックになるのだな?送還された人間全員が同じ地球出身ではないと言う事だな!」
『あっ!!!』
そう、送還された人間全てが黒幕と同じ地球ではない。いや、下手すれば、転移者の多くが全く違う次元の地球に居た可能性がある。そして、それは・・・
「仮に帰されても同じ存在が居れば、両者が世界から最初から存在しない事、つまり存在消滅するドッペルゲンガー現象が起こる可能性がある。そして、それは地球の存在を危うくしかねない。なんてこった、まさに薄氷レベルで危険は常にあったのか」
送還魔法を検証していたクロード以下チームメンバーが真っ青になり天を仰ぐ。そう、先にも言ったパラレルワールド説。その説が今まさに急いでいる理由の1つだ。本人は善意のつもりだろう。自分以外の皆も地球に帰すと言うヒーロー、あるいはヒロインのつもりなのだ。これも危険なのだが、最大の危険は他にもある。いや、この世界から見れば次に自分が発するのが最大の危機だ。
「更に危機は他にある。ガーネット様はお気づきになられてますね?」
「ええ、この世界の消滅の危機です。いえ、正確に言いましょう。星が消滅する危機です」
『んなっ?!』
そう、今急ぐのもこれが最大の理由だ。思い出してほしい、自分を喚んだ召喚魔法を行使した大陸の行く末を。召喚も送還も多大な対価が発生する。ましてや、星に居る転移者全員を巻き込んでの魔法の対価とは何か?
「ヒントは黒幕の魔法は自分は勿論、まだ見ぬ転移者も対象としている。では、それらを全て巻き込んだ時の対価は?」
「やられたわね。確かに星の危機よ。今、転移者は世界中に居る。勿論、私の魔界にもね。それこそ、まだ見ぬ転移者なら世界の端に居ても不思議は無い」
全員の顔が引き締まる。理解したのだろう。そう、対価はこの星と人間達そのものだ。タチが悪いのは黒幕はそれに気づいていない、いや、気付いてすらいない可能性が高いだろう。皆を元の地球に戻すという使命感に駆られて。何処までも本件で発生する事象は偶然であり、今一度言うが本人の善意基づいた行動の結果なのだ。だからこそ、星の危機の原因であり今最も危険な人物である。
「開けます」
そして、自分達は黒幕が居る禁足地への扉を開け、入る。さあ、決着の時だ。
最底辺職の【カードテイマー】で異世界をのんびり生きていく 味醂英雄 @mirineiyuu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。最底辺職の【カードテイマー】で異世界をのんびり生きていくの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます