婚約者の浮気に耐えていたら思わぬお人に救われました

鬼柳シン

第1話 どんなに苦しくても、領地で待つ人々のために

 子爵令嬢リア・ウィンザーは、今日も魔法学園の教室で俯いていた。


 せっかくの金の糸で編み込まれたようなブロンドの髪も、ガーネットのように赤く品性に満ちた瞳も、暗い顔のせいで台無しである。


 それもこれも、同じ魔法学院に通う婚約者、ニクセリオ・イシュカール公爵嫡男の浮気癖からだった。


「イレイナ、今日の君は一段と可憐だ。トパーズのように輝く瞳も、夕焼け空のようなオレンジの髪も、いつにも増して美しく見えるよ」

「まぁ! そんなに褒められては困ってしまいますわ」

「困った顔もまた素敵だから気にしないさ」


 毎日行われるニクセリオと伯爵令嬢イレイナの一時に、リアは思わず溜息をこぼす。


 婚約者として咎めるべきなのだろう。しかし、ニクセリオの浮ついた言葉に婚約者のリアは言いたい事を我慢するばかり。

 リアは、自分より高い爵位の二人へ意見する事ができなかった。


 ニクセリオはそれを知っていた。リアが見ている事を知りながら、イレイナを受け入れているのだ。


 なにせニクセリオはリアを愛していないのである。そもそも公爵家と子爵家では身分違いもいいところだ。婚約も、銀鉱山の栄えるウィンザー領と友好的な関係を築きたい国王がイシュカール家に命じての話なのだ。


 つまりは本人たちの意思とは関係ない婚約。リアもニクセリオと初めて顔を合わせた時から、爵位が下の女として軽んじられているのは気づいていた。

 学園で共に過ごす日々で、むしろ嫌われているという事にも。


 今もまた、当てつけのようにイレイナの頬へキスをしていた。イレイナも照れて見せながら、リアへ勝ち誇ったような顔を向けてくる。


(例え愛されていなくても、我慢しなくては……)


 ウィンザー領は、この国の貿易の要である銀鉱山が広がる領地である。しかし、鉱山ばかりで領民は痩せた土地に苦しんでおり、最新の農具を導入しても解決しない。

 更に子爵家だけでは鉱山の開拓も思うようにいかなかった。そんなウィンザー領へ、イシュカール公爵は、二人が学園を卒業し結婚したら莫大な金銭的支援を約束してくれたのだ。


 だから、リアは公爵夫人となるべく名門魔法学園に通う事になった。しかし、ニクセリオの浮気癖にはほとほと疲れ切っていた。


(……授業も終わりましたし、いつまでも教室にいる必要はありませんね)


 持ち物をカバンにしまい、先に帰る旨を伝えるべくニクセリオの元へ向かう。俯きがちなリアは口を開こうとして、イレイナが「まぁ!」と声を上げた。


「誰かと思ったらあなたでしたか。道理で埃臭いと思いましたわ」

「それは違うよイレイナ、僕の婚約者は鉱山に囲まれて育ったから土臭いんだ」


 あるいは泥かな? などと笑うニクセリオ。リアがプルプルと我慢してお辞儀をして先に帰ると告げれば、興味なさげな瞳が向けられる。


「なに? そんな事をいちいち言いに来たの?」

「婚約者として、当然かと……」

「はぁ……帰りたければとっとと帰りなよ。君がいるとハッキリ言って目障りなんだ」


 「そのような心労を抱えて結婚なさるニクセリオ様が不憫ですわ」とイレイナが続けて言ってきたが、なんとか平常心を保つ。


「失礼……します……」


 もはや嫌っている感情を隠さないニクセリオと嫌味ばかりのイレイナから逃げるように廊下へと向かった。


「ッ……!」


 スカートの裾をギュッと握り、どうしても堪えられない感情を鎮める。


(私が我慢すれば、お父様の領地も、領民の皆様も……!)


 早く二人の視界から出てしまおう。そうすれば、多少は気持ちの整理もつく。

 そう思い小走りで廊下に出ると、丁度誰かとぶつかった。


 小柄なリアは転んでしまいそうだったが、背中へふんわりと手が回される。


「大丈夫ですか?」

「え、あ、はい……ありがとうございます……えっと、あなたは……」


 地味な灰色の髪に、くすんだ青い瞳。タトゥーリア男爵家の三男、マルスだった。


「お怪我はありませんか?」

「は、はい……平気です」

「あまり顔色が優れないようですが……」

「ね、寝不足なんです! 魔法学概論の予習をしていたら朝方になってしまいまして!」


 必死に取り繕うリアに、マルスは「勤勉なんですね」と微笑んだ。


 外見に似つかわしくなく、とても澄んでいて透き通る声だ。


「えっと、その、マルス様……そろそろ手を離していただけると……」

「おっと失礼、婚約者がいる貴方とよからぬ噂が立ってはいけませんからね」

「……ええ、その通りですね」


 婚約者と聞いて無意識に俯いてしまったリアを見てか、心配そうに顔を覗き込む。

 「失礼」と一声かけ、額にヒンヤリとした手のひらを当てた。


「ヒャッ!」

「ふむ、熱はないようですが、やはり体調が優れないのでは――おや?」


 マルスが教室の中へ眼をやると、そこにはイレイナとくっ付いているニクセリオの姿があった。

 ふと、マルスの顔に怒りが見える。


「ニクセリオ様は貴女の婚約者でしょう。それも王の図らいであると聞きます。咎めなくてよろしいのですか?」


 至極真っ当な意見をぶつけられ、リアはまた俯いてしまう。文句など言えるわけもないので困っていると、マルスは今にもニクセリオへ向かって行ってしまいそうだった。


 自分のせいで問題を起こすわけにはいかない。リアは咄嗟にマルスの腕をつかむと、静かな声で告げた。


「私が婚約者として至らないのが悪いのです。ですから、その、ニクセリオ様はきっと、わざと私を追い込んでいるのです……」


 心にもない事を口にするリアは、どんどん語尾が小さくなっていく。マルスは何か言いかけたが、「とにかく私のせいなんです」とだけ言い残し、廊下を駆けていった。


 自分がいなくなれば、マルスも引き下がる。リアは今日もまた自分に嘘をついて我慢してしまった。



  #####



 リアの我慢の日々は続いた。それに対しニクセリオは、まるで心を折って婚約する意思を消すかの如く、リアへの態度を厳しくしていった。


 あるとき憤りを感じたニクセリオは、リアを自室へ呼び出すと、普段の甘い顔からは想像もつかないように歪んだ顔つきをした。


「お前みたいな地位も教養もない田舎者がこの学園に通えるだけありがたい。それは分かるな?」


 普段と違うニクセリオに何も言い返せないリアへ、「僕のお陰なんだから、何も逆らうな」とハッキリ述べた。


「まずは僕に恥をかかせるような真似は絶対するなよ? 茶会に招かれようと、観劇に誘われようと、絶対に断れ。むしろ僕の印象を上げるために勉強をするとでも嘘をつけ」


 リアは震えながら、コクコクと頷くばかり。追撃のように、ニクセリオは指を突き付けてくる。


「それといいか? これからは一人として友人を作るな。お前のような田舎娘風情が上流階級の奴と関わるだけで僕の恥だからな」


 頷くリアは、内心「必要以上に自分たちの不仲を他人に知られないため」と見抜いていた。


 そんな事など知らず、明くる日からイレイナも「所詮は領地だけが取り柄の田舎娘」「ニクセリオ様は本当に不憫ですわ」など、嫌味をワザと聞こえるように言い始めた。


 その度に、領民のためと我慢してきた。自分が耐えればすべて上手くいくと堪えてきた。


 しかしある時、ガゼボでイレイナと愛を語らいあっているニクセリオが「あんな子爵風情と婚約させられたのに、公爵嫡男の僕はよく怒らずに我慢しているよ」と憎しみの籠る声で当然の如く言ってのけたのを耳にしたとき、胸の奥が激しく痛んだ。


「だいたい僕は真実の愛を探していたというのに、父上と国王陛下からの頼みとはいえ、あんな田舎の領民と銀鉱山如きのために婚約するのが間違っているんだ。はぁ、なんならもっと追い詰めてやろうかな。泣いて喚いて領地に帰ってくれたら、僕としてもリアが婚約を破棄したって言い分が通るのにさ」


 当たり前のように紡がれた言葉は、リアの心の中で暴れまわると、ついに我慢の限界を迎えた。


 ポロポロと、今まで我慢してきた涙がガゼボの入り口で零れ落ちる。


「私、だって……私の方がずっと我慢しているのに……!」


 この場にいたくない。その一心でリアは廊下を駆け出した。

 しかし涙を流すリアを、誰も心配する様子はない。


 下手に公爵嫡男の婚約者に関わっては面倒だからと、もはや誰も声すらかけてくれないのだ。

 リアは泣きながら現実に打ちのめされていく。


 気づけば学園の端にいたリアは、フルプルと震えて泣くばかり。


「私はいつまで、我慢すればいいというのですか……!」


 零れる言葉は、誰の耳にも届かない。それでもリアは我慢していた感情を涙と共に流しながら吐き出していく。


「私はいつまで、頑張ればいいというのですか……! いつまで我慢すれば、報われるのですか……! 私は……! 私、だって……!」


 普通の恋がしてみたかった。本で読んだような出会いを夢見る日々に憧れていた。そんな想いも声となって溢れそうになったとき、そっと目の前にハンカチが差し出された。


「まずはこれで涙を拭ってください」

「マル、ス……」

「あまり人を慰める言葉を知らないのですが、やはり女性に涙は似合いません」


 臆面もなく口にするマルスへ、この学園に来て初めての優しい言葉に胸がときめいた。

 これが本で読んだ運命の出会いなのかとも感じていた。


 ハンカチを受け取って涙をぬぐうと、声が上ずりながらも「ありがとうございます」と口にする。


 しばしの静寂の後、マルスが問う。「なにがあったのか」


 リアは迷ったが、もう本音を我慢するのも限界だった。


「ニクセリオ様は、私を愛していないのです……」

「なんですって?」

「婚約者がいる身でありながら、他の女性ばかりと過ごしているんです!」


 それがきっかけのように、リアは我慢してきたすべてを吐き出した。


「私への当てつけのように他の女性と仲良くしていました! わざと聞こえるように嫌味もさんざん言われました! 友達も作るなと命令されました! ――なぜ私がこんな目に遭わないといけないのでしょう……」


 最後にこぼれ出たのは、自分自身でも気づけなかった、心の底にある想いだった。


 すべて言い終えたリアは、ハッとしてマルスの顔を見上げる。今の事が他人に知られては、婚約話も立ち消えるかもしれない。そうなっては我慢してきた日々も無駄になり、領民も救えない。


 しかしそんな不安は、それまでのマルスからは想像もつかない厳格な言葉と別人のような顔つきでかき消された。


「今のはすべて本当の事なんですね」

「マルス……?」


 明らかに雰囲気が変わった。喋り方も覇気のあるものへと変わる。


「今の話が本当だとしたら、国王の勧めた婚約者がいるにも関わらず女にかまけ、あまつさえ婚約者である君に辛く当たってきた。それらはすべて、嘘偽りない事なんですね。だとしたら、許せるものではありません」


 威圧感を感じさせるマルスへ恐れつつ頷くと、少し考えるそぶりを見せる。

 ギラついた瞳のままリアを見つめると、一つ気になる事があると言った。


「君は、なぜそれだけの仕打ちを受けて今まで耐えてきたのですか? 公爵夫人という立場のためでしょうか? 不自由ない生活のためでしょうか? それとも単純に金のためでしょうか?」

「……そのような欲望は、私にはありません」

「ではなぜでしょう。君が耐える利が私には分からない」


 リアは今この瞬間だけは、我慢することなく、すべて話す事にした。

 自らが心から大切にする、吉報を待つ人々を思い浮かべながら。


「簡単な事ですよ。私の領民のためです」


 リアは続けた。銀鉱山の採掘はお金にこそなるが重労働であり、鉱毒の危険性もある仕事だと。痩せた土地なので農業もうまくいかないと。子爵家のお金でなんとかしようにも、領民のすべては救えないと。


「ですが私一人が我慢すれば、なにもかも解決するのです……今この瞬間だけとはいえ、我慢をやめてしまった私に言えた事ではないのでしょうけど」


 マルスはなぜか、驚きに満ちた顔をしていた。おおかた、綺麗事を並べているとでも思われているのだろう。自嘲気味に笑おうとしたリアへ、厳格な声から一変し、優しい声が陽光のようにリアへ降り注いだ。


「君が泣くのはおかしい。ましてや我慢するなど、本来あってはならないのです」

「……ですが、そうしなければならないのです。子爵家とはいえ、人を束ねる立場に生まれたのでしたら、無理をしてでも成さねばならない事もあるのです――とはいえ、全部話したらすっきりしました。この後も心を落ち着けたら、また我慢の日々を続けます」


 そうして、リアは疲れた顔で不器用に笑うと、その場を去った。だが取り残されたマルスは一人呟く。


「……許してなるものか。あのような方が報われない国など、あってはならない――私が断罪する」



 ####



 後日、ガゼボが騒然としていた。イレイナを傍らに愛を囁くニクセリオの元へ、マルスが颯爽と現れ、「貴様は間違っている」と糾弾したのだ。


 しかしニクセリオは、マルスを鼻で笑った。


「いきなり現れてなにかな? 僕がなにか間違えたのなら、筋道立てて教えてくれるかな?」

「いいのですね。ではこの私が直々に教えてさしあげましょう。貴様は婚約者がいる身でありながら、今も別の女性と共に過ごし、あまつさえリア子爵令嬢には断りも入れていない」

「リアがなんだって? しっかり愛しているし将来は結婚するんだからいいだろう? それと君、僕から言わせてもらうけど立場をわきまえな? 公爵家の嫡男に向かって不遜な言葉、許されるものじゃないよ?」


 イレイナも横から「そうよそうよ!」と捲し立てる中、マルスは大きなため息を吐いた。


「仮にも公爵家嫡男ともあろう者が、私の声を忘れたのですか? 余程地位にかまけて、社交の場に出ない怠け者のようですね」


 ピクリと、ニクセリオが眉を顰めた。怒りをあらわにして口を開こうとしたとき、マルスが自らの顔にフッと触れた。


 まばゆい光にニクセリオが目を覆うと、次に顔を見た時は驚きに満ちていた。


「マルセウス……第一王子……!?」


 陰で見ていたリアもまた言葉を失っていた。地味な灰色の髪は白銀に輝き、くすんだ青い瞳は、青空を思わせるシアンへと変わっている。


 まごう事なき、この国の第一王子マルセウスだった。


「な、なぜ殿下がここに……」

「知らないのですか。ここは歴代の王族が光の魔法により素顔を隠し、魔法の鍛錬と民に対し平等に接する方法を学ぶ場所であった事を」


 ざわざわと、噂は本当だったのかと声がする。

 そんな中、ニクセリオはすっかり余裕な態度をなくし、怯えながらマルセウスを前にしていた。


「ぼ、僕の不遜な態度は、その……」

「私が言いたいのはその話ではない」

「えっ……では、なにを……」

「先ほども言いましたが、婚約者がいる身で他の女にかまけている事です」


 ニクセリオは、それの何が悪いのか分かっていない様子だ。あわあわとしながら、なんとか弁明しようとしている。


「で、ですが、僕が本当に愛しているのはリアだけでし……」

「とぼけるなっ!!」


 王族に相応しいマルセウスの一喝に、ニクセリオは「ヒィッ!」と腰を抜かしていた。

 続けざまにマルセウスは指を鳴らすと、生徒に紛れていた女性がサッと現れた。


「この者はとある伯爵家の令嬢という身分を借りて、私の目となり耳となっていた。どうやら調べたところによると、先日貴様はイレイナ伯爵令嬢と夜を過ごしていたそうではないですか」


 ニクセリオがイレイナを目にすると、当然のように「あの夜のことですか? 話しましたよ」と答える。

 ニクセリオは更に追い詰められたような顔になっていた。

 一方マルセウスは堂々と、「真実を述べる!」と叫んだ。


「ニクセリオ公爵嫡男は結婚を控えるイレイナ伯爵令嬢の処女を奪った!! イレイナ伯爵令嬢が自慢するかのように話すのを密偵が聞いた事が証拠だ! 疑うのなら、確かめる方法ならいくらでもあるぞ!!」


 リアも、周囲の生徒たちも呆然としていた。伯爵令嬢ともなれば、処女は初夜を迎えるまで取っておかねばならない。


 それを学園に通う未熟な身でありながら奪った。その先の未来も潰した。

 例えリアが婚約者でなくとも、同じ女性として許せる事ではなかった。


「第一王子として命じる! 責任を取り公爵家嫡男の身分を廃嫡とし、これより伯爵家にて責任をとれ!」


 崩れ落ちたニクセリオに、イレイナは首を傾げていた。


「なにか問題ですの? 私を選んでくださるのでしょう? これを機に婚約を結びましょう!!」

「なっ! ぼ、僕は遊びのつもりで……王命もあるし、父上からなんと言われるか……そもそもお前のせいで廃嫡になったんだぞ!!」

「え!? ですが私たちには真実の愛があると言ってくださったじゃありませんか!!」

「ふざけるな!! この売女めが!!」


 公衆の視線も忘れて、ニクセリオはイレイナをビンタした。

 イレイナは頬を押さえ、呆然としている。


「この私が……売女ですって……!!」


 当然イレイナは顔を真っ赤にして怒り、ニクセリオには女生徒たちの軽蔑の視線が突き刺さる。


 場が騒然とする中、リアだけは一人、別の問題を危惧していた。


(私の婚約話がなくなってしまったら、領民が……!)


 リアは気づいたらマルセウスに駆け寄っていた。事の旨を伝えようとして、すぐに振り向かれる。


 耳元にマルセウスの顔がくると、「これですべて上手く」と囁く。


「公爵としてとして相応しくない者を追い出し、君の婚約問題も解決するのですが……」

「で、ですがニクセリオ様は廃嫡となったのでは……」


 言うと、マルセウスは大真面目な顔で言う。「私の婚約者になってくれませんか」と。


 言葉を失うリアを知らずか、マルセウスは続けた。


「最近は父上より婚約者を見つけろと毎日のように言われていましてね。建前でも構わないので、婚約相手は私ではだめでしょうか?」

「そ、そんな! 急に仰られても……」


 慌てるリアに、マルセウスは少し困ったような顔を見せた。


「王子が下級貴族の身分を借りて学園に来るのは、学園内で本当に信頼できる婚約者を見つけるためでもありまして。実を言うと、今回の一件で、あなたなら相応しいかと思ったのです……駄目でしょうか?」


 マルセウスの事は、正直に言ってしまうと惹かれる面もある。

 領地の問題も解決できるし、誠実さは今の一件でより知れたので、願ってもない相手なのだが……


「私は、ただの子爵家育ちの田舎者ですよ?」

「そうでしょうか? ウィンザー領は国の貿易の要です。そこで育った君なら品性に欠ける事もないでしょう。それに、銀鉱山の件は父上も重要視していましてね。私が直々に観察できれば安泰というのも本音です。それに……」


 マルセウスはいくらか言葉を探すと、「君は王族に相応しい」と述べる。


「君は領民のために自己を犠牲にする清らかな心と、耐える強さを持った女性だ。ならば社交界で私に言い寄ってくる身分だけが目当ての女性より魅力的と言えるでしょう。以上を踏まえて、君と婚約を結びたいのですが」


 駄目だろうか、と第一王子が子爵令嬢に過ぎないリアに問いかけている。この状況そのものに面喰らいながらも、リアは自分ために話を聞いてくれたマルスの一面と、ニクセリオを糾弾したマルセウスとしての姿に、更なる胸のときめきを感じていた。


「その……私なんかで、よろしいのでしたら」

「了解しました。では早速城の一室を用意させましょう」


 当たり前のようにマルセウスは口にするが、リアは驚いて止めようとする。


「私には学舎がありますから!!」

「いや、将来の事を考えるなら城に住んでもらった方がいいですね。とにかく広くて迷いやすいので……嫌でしょうか?」

「いえ、私は……嬉しいようなとんでもない事になってしまったような……頭がパンクしそうです!!」


 こうして、リアの新しい日々が始まった。今度は辛い事を我慢する日々ではないが、なにかと気を遣う王族の婚約者という立場に、てんてこ舞いとなるのであった。



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また、現在投稿中の長編

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