辺境に舞い降りた天使や女神たちと営む農村暮らし ~『お前はもう必要ない』と言われて殺されそうになったので、異国の地でスローライフすることにした
女難の相その2『触るなとか触ってとか何を言ってるんだ?』2
女難の相その2『触るなとか触ってとか何を言ってるんだ?』2
「この村の女性たちは殿方と同じで、本来であれば気さくな触れ合いを好む傾向にありますから、男女問わず、挨拶のときには軽く肌の触れ合いをしてくることが多いです。それが愛情表現の一種にもなっていますからね。ですので本当であれば、まったく問題のない行為なんです。グレアムさん含めて」
「まぁ、そうだな。他の連中も普通にやってるし、俺もそのつもりだったしな。ただまぁ、キャシーたちだけはなんかしらんが、毎回変な顔してくるけどな。他の連中はなんともないのに」
思い返してみても、あのギルド嬢トリオだけはなんか他と雰囲気が違っているような気がした。
ライラなどは広場で会ったときに声かけると、なぜか「うっふふ」と艶微笑浮かべながら、しなだれかかってくることが多いのだが、キャシーたちはその真逆で、近づくと理由はわからないが、「さささっ」と逃げてしまうことがときどきある。
背後から声をかけても、可愛らしく「きゃっ」と悲鳴上げたあと、顔を真っ赤にしながらキンキン声を出してくることすらあった。まぁ、主にキャシーがだが。他の二人はそこまで強く反応しない。
(何度思い返してみても、おかしな奴らだよなぁ。あいつら、いったいなんなんだ? ライラの場合は何考えているかわからないところがあるから、そもそも行動自体謎なわけだが、キャシーたちの場合はなぁ……)
眉間に皺を寄せながら首を傾げていると、
「そうですね。グレアムさんのおっしゃる通りです。だからこそ、そこに問題があるんです」
と、マルレーネが口を開いた。どうやら、キャシーたちのことで言いたいことがあるらしい。
「ん? 問題?」
「はい。彼女たちは他の殿方だとそこまで嫌がりませんが、グレアムさんだと必要以上に拒否反応を示すんです」
「へ?」
グレアムは、またしてもマルレーネが何を言い出したのかまったく理解できず、ぽかんとしてしまった。
この村に来てからの五年間を振り返って見るが、キャシーたちも最初の頃は他の連中と大差ない反応を見せていたような気がする。しかし、いつからかはわからないが、最近では妙に警戒されているような気がした。知らない間に嫌われるようなことでもしてしまったのか、それとも別の理由があるのか。
考えても答えは出ない。ただ、嫌がられていることだけは間違いなさそうだ。
(やっぱり、悲しいが嫌われてしまったと考える方が妥当なのかもしれないな)
年頃だからか、結構気難しい感じで付き合いにくい三人ではあったが、いざ嫌われたとなると、それはそれでなんだか寂しい気もする。
非常に複雑な気分となってしまったグレアムだったが、そんな彼にマルレーネが更に付け加えた。
「それから挨拶についてですが、これは何もキャシーたちに限ってのことではありません。リクの情操教育のためでもあります」
「ん? リク? どういうことだ?」
頭の中に悪戯小僧のニヤニヤした顔が浮かんでくる。
「グレアムさんは他の殿方と違ってかなりの影響力を持っているんです。特にリク。あの子はグレアムさんをなぜか強く意識しています。慕っているといっても過言ではないでしょう。ですので、グレアムさんのおっしゃることをすべて真に受けてしまうかもしれませんし、言動すべてを真似してしまうかもしれません」
淡々と語る彼女が何を言いたいのか、そこまで聞いてやっと理解したグレアムは、非常に面倒くさそうに頭をかいた。
「あ~……てことはつまり、なんだ? 理由はわからんが、キャシーたちもちょうど嫌がっているし、スカートめくりみたいにリクが曲解するかもしれないから、ただの挨拶だったとしても、他の連中はともかく俺だけはやらん方がいいってことか?」
「えぇ。そういうことです。ですので、グレアムさん
そう言って最後はにっこり微笑むマルレーネだった。
グレアムはそんな彼女に肩をすくめながら、「なんだかなぁ」と呟いた。
「なんかえらく面倒くさい話だな。なんであいつ、俺を慕ってるんだ?」
「さぁ? 悪戯も止めるように言いましたが、まったく聞きませんしね。もしかしたら、グレアムさんが言えば、ある程度言うこと聞いてくれるかもしれませんけれど。今度、あの子を叱ってあげてくれませんか?」
「俺がか? ……あ~まぁ……そうだな。機会があったらな……」
孤児院にはときどき顔を出すこともあるし、そのときにでも話してみるかと、グレアムは思った。が、ふと、そこまで考えて「ん?」と思った。
「ていうか……あれ? そういえば、さっき変なこと言わなかったか?」
「はい?」
「いや、なんか、マルレーネだけは触ってもいいとか言われた気がしてな」
そこまで言ってじっと見つめる。
「なんでマルレーネだけは触ってもいいってことになってるんだ? リクが真似しないように軽はずみな言動慎むなら、マルレーネも触らないほうがよくないか?」
腕組みしながらさも当然といった感じできょとんとしてみせたグレアムだったが、対するマルレーネは不思議そうに小首を傾げた。
「なぜと言われましても、私はキャシーたちと違って、別に触られても平気ですし。それに私一人だけが相手でしたら、リクも変な風に勘違いしないと思うんですよ。元々、私たちがそれなりに長い付き合いだとわかっていますし」
「まぁ、それはそうなんだけどな」
しかしなぜか、妙に釈然としないグレアムだった。
そんなグレアムの気配を察したのだろう。マルレーネは、
「ともかくです。いいですね? 今後はくれぐれも、グレアムさんは言動に気を付けてください。そして、リクがおかしな勘違いしないように、私以外は触らないこと。わかりましたね?
最後の方、何かおかしなことを言われたような気もしたが、
「わ、わかったよ」
グレアムは若干、タジタジとなりながらもそう答えることしかできなかった。
(し、しかしまぁ、とりあえず、よくわからんが、誰も触らなければいいってだけだよな? うん。きっとそうだ。
結構気さくに馴れ合える村だと思っていたから、何も気にせずお気楽な毎日を過ごせていただけに残念ではあるが。しかし、こうなってしまったからには仕方がない。
既に癖になっているから難しいかもしれないが、リクの教育のためにも気を付けようと、グレアムは軽く心に留め置くのであった。
「あ……それから、グレアムさん」
「ん?」
「ギルドの仕事で採ってきて欲しい薬草があるんです。お願いしてもよろしいですか?」
「あ? ……あぁ。それぐらいなら構わないよ。朝飯食ったらすぐ行ってくるよ」
「わかりました。お願いしますね」
彼女はにっこり微笑みながらお辞儀すると、カウンターの上に置かれていた羊皮紙をグレアムへと渡し、奥へと引っ込んでいった。
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