第4話

          

          ・


 私は、美咲がこの町にいることを知っていた。


 知っていても会わないつもりだったが、まさか化粧品を買いに来て会うことになるとは思わなかった。


 卒業して15年も経つというのに美咲は変わっていなかった。

 水のような透明感のある綺麗な肌。

 少し気の強そうな表情が、笑うと一気に崩れるところ。

 真っすぐで優しい目。


 そして、そんな美咲を見てときめいてしまう私も、学生時代から何も変わっていなかった。


 久しぶりに彼女と話すのは、とても緊張した。

 メイクをして、ネイルをして、学生の頃より着飾っていたはずなのに、話す時にまっすぐ見つめてくる美咲の視線によって、心の中が丸裸にされるような感覚に陥っていた。


 スマホを取り出してLEINのIDを交換しているときも、私の指先を見る美咲の目線に、緊張で手が震えるのを見透かされているような気がした。

 それでも、その動揺を隠すために余裕のある大人の女性を演じ、美咲とのやり取りを自然に終えることができた。

 何を買いに来たのか忘れてしまった私は、美咲と別れてすぐ家に帰った。


 そしてLEINを開き、美咲のプロフィール画面を見つめている。

 美咲をカフェに誘うメッセージを打ち込み、それを送ろうとして、何度も推敲を繰り返す。


 ほんの数文字のメッセージを送信できないまま、時間は刻一刻と過ぎていく。


 大人になったのに、学生の頃とちっとも変っていない自分に、少しため息が出る。

 今も大人を演じているだけで、学生の頃より後先を考えるようになってしまって踏み出せなくなっているだけのような気もする。

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