第6話 王都観光

 王都に来て一日目は目まぐるしく過ぎ去った。リアムにとっては初めての王都だったが、義姉と共に馬車で王城に向かう間、道路やその周囲に立ち並ぶ建物の大きさ、人の多さに圧倒される。何よりメインストリートの先にそびえる王城は、今までに見たことのない規模の建物。家族からはその立派さを良く聞かされていたが、実際に見てみるとただただ圧倒されるばかり。これから大仕事があると言うのに、義姉のイブリンに緊迫した雰囲気はなく、むしろそんなリアムの様子に微笑みを向けていた。


「王都はどう? 辺境伯領とは随分違うでしょう」

「はい、姉上! まさかここまで違うとは……世界と言うのは、実際に見てみないと分からないものですね!」

「フフフ、そうね。ここは国中から人も物も集まってくる場所。だから日々色々なことが起こるのよ。しっかり見ておくといいわ」

「分かりました」


 そして直ぐに『色々なこと』の意味を知る。その後城であったことは本当に信じられない様なことばかりで、初日から頭がパンクしそうだった。そう、リアムは義姉から『城でちょっとしたイベントがある』とだけ聞かされていたからだ。そして今日は義姉の勧めで王都観光に行くことに。リアムもイヴリンも少しオシャレな普段着と言った格好で待っていると、一台の馬車が屋敷の前に横付けされた。中から飛び出してきたのは、昨日も会ったヴィクトリア嬢。


「おはよう、イヴリン! と、弟くん!」

「おはようございます」

「おはよう、ヴィクトリア。今日はよろしくね」

「任せておいて! 流石に一日で王都全部を周るのは無理だけど、見所を厳選してきたからね! あ、そうだ。今日は彼も一緒だから」


 ヴィクトリアが目線を向けた方向には、ラルフ第二王子……彼女は義姉の親友だから同行するのは分かるが、なぜ王子が!?


「そんな顔で見るな、レッドモンド。僕は無理矢理連れてこられただけだ」

「なーに言ってるのよ、普段なら誘っても全然一緒に来ないくせに」

「そ、そんなことは!」

「今日は宜しくお願いします、殿下。ジェイミーとヴィクトリアにお願いして、殿下も誘ってもらったんですよ。リアムと親交を深めてもらおうと思って」

「? 姉上、それはどういう……」

「殿下もそろそろ城で本格的にお仕事をされるそうだから、その補佐役としてあなたを推薦しておきました」

「ええっ!?」


 突然聞かされた王都での仕事の件。まさか王子の補佐役とは! しかしリアムにとってはこれ以上ないぐらい贅沢な職場だ。王子の側で国の政やその他多くのことを学べるのだから。


「よ、宜しくお願いします、殿下」

「僕は別に補佐役など必要としていないんだが、兄上の指示とあらば断る訳にもいかない」

「はいはい、今日は堅苦しい話はなし、なし。二人とも、乗って乗って」


 ヴィクトリアに急かさせる様に馬車に乗り込むと、ゆっくりと動き始める。義姉とヴィクトリアが隣同士に座ってしまったので、リアムはラルフ王子の隣で若干気まずかったが、ヴィクトリアがあれこれ話を振ってくれたお陰で徐々に雰囲気も和んでいった。


 王都はいくつかの区画に別れていて、レッドモンド邸がある貴族の住宅区画、庶民の住宅区画、そして商業区画に工業区画、更には文化区画と言うのもあるらしい。馬車がまず向かったのは文化区画。ここには博物館や図書館、アカデミーなどが立ち並んでいる。


「アカデミーとは学校の様なものですか?」

「そうだな。しかし学ぶと言うよりは研究が主体だ。我が国や他国の歴史や政治、工業における新しい手法なども研究されている。我が国が発展するための原動力でもあるんだ」

「なるほど」


 お互いに少し慣れてきたので、ラルフ王子が直々に説明してくれる。入学には審査があるものの学費などは無料だそうで、それだけでも国力がよく分かる。博物館には絵画や芸術作品、それに歴史的に価値のある武具なども多く展示されていて、どうやって作ったのか分からないほど大きい国の紋章を刺繍した旗や、ふんだんに金や宝石を使った馬車や馬具などリアムにとっては見たことないものばかり。図書館の本棚は人の背丈より遥かに高く、見渡す限り本、本、本。田舎者丸出しなのは分かっていたが、もう呆然とする他なかった。


「姉上もここで本を読まれたりするのですか?」

「そうね、たまに来てはいたけれど屋敷にも蔵書はあるし、城の中にも書庫があるのよ。そちらに行くことの方が多かったかしら」

「イヴリンは本を読むのが凄く速いのよね! 暇さえあれば何か読んでたし」

「私はきっと知識を得ることが好きなんだわ。役に立たない知識も多いけどね」


 そう言って笑ったイヴリンだったが、リアムも彼女の異常なまでの速読と知識習得の速さは知っていた。彼女が領地に嫁いできてすぐ、彼女はレッドモンド家に関するあらゆる知識を身につけてしまっていたし、領地の兵士や屋敷で働くメイド、使用人まで全ての人間の顔と名前を覚えていた。とにかく博識で、リアムも彼女に色々と教わってきた。この環境で彼女が育ってきたんだと思うと、今まで知らなかった義姉のことが少し分かった気がして嬉しくなる。


「さて、じゃあそろそろ次の場所に移動しましょうか。お昼も近いし、丁度いいわ」


 ヴィクトリアの案内で次の場所へ。そこは商店や飲食店が建ち並ぶ通りで、彼女が予約してくれてあった店に入ると二階のテラスに案内された。そこは街の中を流れる川が良く見渡せ、心地よい日差しが降り注ぐ贅沢な空間だった。


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