第5話 レッドモンド邸

 祝賀会を終え、イヴリンとリアムは馬車でエガートン邸に向かっていた。イヴリンにとって三年ぶりの我が家。そこには以前家族と過ごした楽しい思い出が詰まっている。普段はあまり感情を表に出さないイブリンも、今は少し心が踊っていた。


「姉上、楽しそうですね?」

「フフフ、分かる? 三年ぶりの我が家だから」

「僕も楽しみです。姉上の生家ですものね」

「これからはあなたの家でもあるのよ。そのつもりで過ごすといいわ」

「はい!」


 エガートン邸は城から少し離れた、邸宅が立ち並ぶ地域一角にあり、その中でも大きな敷地の立派な建物だ。エガートン家はスペディング王国が成立して王都ができた時から続く名家で、この屋敷の建物にもそれだけ歴史がある。もちろん、本日イヴリンと対立した叔父のゴドフリー・エガートンも昔はここに暮らしていたが、イヴリンの父であるベンジャミンが爵位を継承した時点で家を出て、子爵として王都から少し離れた場所にある小さな領地を治めている。


 二人の乗る馬車が門前に付くと外門が開かれ、屋敷の前に馬車が横付けすると見計らった様に扉が開き初老の男性が迎えに出てきた。


「お帰りなさいませ、お嬢様。そしてようこそ、リアム様」

「ただいま、サミュエル。あなたも屋敷も変わりない様で安心しました」

「有り難うございます」


 扉を入るとそこは広間になっていて、奥の階段へと伸びる絨毯沿いにズラリとメイドや使用人たちが並んでいた。新たに加わった人たちもいる様だが、多くは三年前と同じ顔ぶれ。


「お帰りなさいませ、お嬢様!」

「ただいま、みんな。三年間、家を守ってくれて有り難う」


 イヴリンがそう言うと、皆顔を上げて嬉しそうに彼女を見つめる。中には感極まって泣き出しているメイドの姿も。イブリンは側にいた泣いているメイドに近寄ると、そっと彼女の手を取る。


「もう、相変わらず泣き虫なんだから、リズは。また宜しくね」

「はい! お嬢様!」


 その様子を見て堪らなくなったのか、皆イヴリンのたちの周りを取り囲む様に集まってきて再会を喜ぶ。ああ、帰ってきたんだと、イヴリンも実感を強めたのだった。一通り皆と再開の喜びを分かち合い、部屋に戻って着替え。応接に移動するとしばらくしてリアムもやってきた。


「姉上、あの様な広い部屋を頂いてもよろしいのでしょうか?」

「部屋はたくさん余っているから、好きな部屋を使っていいのよ」


 二人がソファーに腰掛けると、執事のサミュエルが直々に紅茶を差し出してくれた。彼の淹れてくれる紅茶は絶品で、イブリンは久々にその香りと味を堪能する。


「ここはあの子爵の生家でもある訳ですよね? 姉上が王都を離れる際、ここはあの男の手には渡らかなったのですか?」

「お嬢様はご主人様と奥様が亡くなられてすぐ、ここをジェイミー様に譲渡なさったのです」

「ジェイミー王子に?」

「ええ。叔父様がこの屋敷を手に入れたがるのは予想できましたから。ジェイミーの持ち物となってしまえば、おいそれと手出しはできないでしょう?」

「それでは、いずれここに戻る予定だったのですか?」


 夫であるパトリックが亡くならなければ、今日彼女が行ったことは彼がするはずだった。結婚した時にイヴリンはこの計画をパトリックに話し、彼も義両親も了承してくれていたのだ。そして彼女が戻るまでの間、ここで働いている人たちを継続して雇うことも調整済みだった。


「今日からここはエガートン邸改めレッドモンド邸よ。お父様とお母様がこちらに来られた時にも使って頂けるわ」

「お嬢様、明日は領地の方に向かわれますか?」

「いえ、明日はリアムに王都を案内するわ。ヴィクトリアが迎えに来てくれるから」

「承知致しました」


 それからしばらくサミュエルから三年間の王都の様子を聞いたり、イヴリンがレッドモンド領でのことを話したり。最初こそ緊張していたリアムだったが、徐々に会話に交じる様になったし、彼がここに馴染むのにもそう時間はかからないだろう。どうやら押しの強いヴィクトリアのことは少々苦手な様子だったが、彼女は大親友。リアムにも慣れてもらうしかないと思うイヴリンだった。

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