第2話 イヴリン・レッドモンド
兜を取った赤い鎧の騎士の中身に凍りつくエガートン子爵。ラルフを含めその場に居た者は鎧の中身が男性だとばかり思っていたが、壇上の王と王妃、それにジェイミーはその正体が女性であることを知っていた様だった。彼女は再度王に対して礼をすると、子爵の方へとゆっくりと向き直す。
「お久しぶりですね、叔父様」
「お、お前がどうして!?」
「亡き夫の名代として参りました。そして、先程頂いた伯爵位を私が継承致します」
「なんだと……」
確認するように王の方を見た子爵だったが、王や兄の様子から真実であることを理解した様子。しかし納得が行かないのか、女性に食い下がる。
「例え王族から権利の半分を譲渡されたとしても、それでは私と同様のはずだ! 同じ五割の権利しかないのなら、直ぐにお前が領地権を授与されることにはならない。お前が伯爵になったからと言って、爵位は関係ないはずだ!」
「おっしゃる通り。権利は同等でしょう。しかしこの国の決まりでは、所有する領地が広い方が領地権を得るのですよ」
動じることなく返答する女性。しかしそれでも無理がある。王族と子爵で半分ずつの権利を持っていたと言うことは、所有している領地も半分ずつ。彼女が領地の半分を得たからと言って有利になる訳ではない。それが分かっているからか、子爵の表情には先程まではなかった余裕が見え隠れする。立ち上がると彼女を指差しながら、唾を飛ばして大声で喚く子爵。
「領地が五割ずつであれば、長く領有していた方が全体の領地権を得るんだ! お前は三年間辺境伯領に居たのだから領有はしていないだろう。ならば……」
「ですから。私が元来あの領地に所有していた土地と、今回王よりお譲り頂いた土地、合わせると叔父様よりも多くの領地を保有していることとなります」
「? ど、どういうことだ?」
「父と母が生前、私は領地にある邸宅と先祖代々の墓地を譲渡されました。領地の全体からすれば一割にも満たない広さでしょう。しかし領地は領地。あなたが得た『半分』とは、そこを含まない半分ですので、五割に満たないんです」
「なん……だと……」
ガクッと崩れる様に膝を付いた子爵。ラルフもようやくからくりを理解することができた。なるほどそういうことか。兄の方を見ると薄っすらと笑っていて、どうやらこの件には一枚噛んでいたらしい。子爵のその様子を見てジェイミーが声を掛ける。
「そういうことだから子爵、もう下がってもいいぞ。この後伯爵の祝賀会が催される予定だが、君も出席するかい?」
「……」
歯が折れんばかりに食いしばり、ジェイミーを睨みつけた子爵。しかし王の手前暴言を吐く訳にもいかず、
「失礼……します……」
と、絞り出す様に言って、スタスタと部屋を出ていってしまった。王と王妃も立ち上がると、女性の方に向き、
「よくぞ戻ったな、イヴリン……いや、レッドモンド伯爵。パトリックは残念だったが、そなたは健勝そうで何よりだ」
「もったないお言葉。陛下の数々のご配慮、感謝致します」
「うむ、後ほど鎧を脱いだ姿も見たいものだな」
「はい」
親しげに言葉を交わす二人。王と王妃が退場すると、役人や貴族たちもぞろぞろと部屋を出ていった。ラルフも王に続いて退場するが、ジェイミーだけは残って彼女と何やら談笑。王にイヴリンと呼ばれた女性を兄は良く知っている様だったが、ラウルは彼女を知らない。しかしイヴリンと言う名前には聞き覚えがある様な……そんなことを考えながらその場を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます