7節

イン・ジャングル!

 がたんっ、とジープの後部シートが揺れた拍子に、おれの全身も勢いよく浮き上がった。思わず胸の前でシートベルトを握りしめる。


「ったく、快適なツアーだな、ちゃんとタイヤを選んだのか?」


 助手席のザジが皮肉っぽく口を開けば、


「選んだわよ。タイヤじゃなくて、道があまりにもひどすぎるの」


 運転席でハンドルを握るシェリファもむっとして言い返す。ふたりが不機嫌なのは悪路のせいだけでなく、異様にむしむししたこの気候も大きな要因だろう。


「あっ、すごい! いまめっちゃ大きい蝶いた。しかも超きれいな模様だったよ。ヒデトは見た? やっぱしっかりしたカメラを持ってくればよかったなァ」


 隣のシートで全開の窓にかじりついたルナが、黄色い歓声を上げる。


 窓外を流れ去るうっそうとした熱帯雨林の景色を、少女はきらきら輝く瞳で眺めている。まったく、彼女だけはどこにいてもブレることがない。おれは小さく吐息をつくと、手もとの水筒のふたを開けてなかの水を口に含んだ。


 時刻は午後二時過ぎ。


 早朝にコパカバーナ・キャッスルをチェックアウトし、飛行機に乗ってブラジル北部、アマゾン川流域の町に到着したのが正午ごろだ。簡単に腹ごしらえを済ませてから町中で小型のジープをレンタルし、いざジャングルのただ中へ。


 最初はおれも青々と深く茂る植物や、その隙間に見え隠れする見たことのない生き物たちの姿を楽しんでいたのだが、あんまり代わり映えしない眺めにそのうち飽きてしまった。いっそ道と呼ぶのも怪しく思える路面コンディションに辟易したというのもあるし、密林の奥へ進入していくうち、次第にこの先で自分たちを待ち受けている危難を実感し始めたのも大きい。

 こんなにも文明からかけ離れた土地で万一命を落としたりしたら、現代の風習に従って弔ってもらうことなどまず望めないだろう。


「そういえば今朝、リオのホテルで気になるうわさを聞いたんだが」


 と、何気ない口調でザジが切り出した。


「なんでも夜が明けてから、ブライアン・カーマの姿が見えないらしい」

「だってね。それに未明、バルボッサ・ファミリーの人間が何人もカーマ氏の部屋を訪れたとか。たぶん、彼がパーティーのあとでシェリファを部屋に入れて情報を漏らしたことを、バルボッサ兄妹が察知して処刑に及んだんじゃないかな」


 あっけらかんとした顔でおそろしい推測を口にするルナ。ザジも不安そうな低い声で、


「おいシェリファ、まさかあの男におれたちの素性を知られなかっただろうな」

「大丈夫よ。顔を隠すマスクは最後まで外さなかったし」


 まるでそれ以外のものは外したような言い方である。


「なあルナ。いま向かってる麻薬工場に、本当にヌエの奴はいるのか?」


 おれは心配になって尋ねた。バルボッサ・ファミリーがアマゾン奥地に構えている麻薬工場にヌエが滞在している――その情報をシェリファがブライアン・カーマから得たからこそ、おれたちはこうしてジャングルの悪路に車を駆っているのだ。しかし、情報漏洩が先方にばれたのだとすればこちらの目的についても悟られていると考えるべきで、目的の人物であるヌエはすでに移動してしまっている可能性は大いにある。


「……そうだね。カーマ氏が処刑される前に、バルボッサ兄妹にどこまで話しているのかにもよるけど」


 さすがのルナも慎重な顔つきだった。それでも慎重なのはあくまで顔つきだけである。


 尋ね人のヌエがすでにいないのなら、わざわざ危険を冒して麻薬工場に忍び込む必要はないはず――それがおれの内心の期待だったのだが、その程度の推測で引き返すルナでもないし、チーム〈ボトルムーン〉でもないのだ。

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