第5話 芭蕉気取り

「お嬢は先代の“女の涙”を見たことはねえのかい? ワタシャ何度も見た。もし先代がそういう涙を自分の娘にも流させたいなんて思う薄情なお人だったら捨て子のワタシを我が子同然に育ててはくれねえさ」


「だからどういう事なの??」


「皆まで言わせるとは悟りの悪いお嬢様だな。 先代はワタシとお嬢が一緒になるなんて望んじゃいなかったさ!

 だってそうだろ?!ワタシャこんな唐変木だ!死ぬまで苦労するのは火を見るよりも明らかだ! 

 だけどワタシだって、一生浅路雪之丞一座で飼い殺しになるのも御免だ!! 芸の為にカタギじゃない女を喰らい続けるのがワタシの信条だからな!

 芭蕉を気取れば『日々旅にして女をすみかとす』だ!!

 だからこの辺が潮時!袂を分かつ時だ。

 昨日抜けさせてもらったのはヘッドハンティングって奴さ!来週早々にもワタシャ博多の進撃座に立つさね」

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