第4話 手切れ金

「お嬢は相変わらず可愛いねえ~ワタシャお嬢よりは色恋の機微を分かってる。その上で申しますがあの御曹司はお嬢に気がありますよ!」


「笹川さんがワタシの事を?! バカをお言いでないよ! しがねえ旅芸人は旅芸人同士で乳繰り合うのが関の山! 先代だってそうさ! 先代は信さんを心から買ってたし!そういう“お膳立て”なのさ!」


「お嬢!それは違うね! 確かにワタシは先代に可愛がってもらったが、こうも言われた『いいかい!信!例えしがねえ旅役者でも女形になるからは女心の底の底まで知らなきゃならねえ!だから女を喰い尽くさんばかりに遊びな!ただ、アンタの芸を見に来てくれる“カタギの”お客様には手を付けちゃいけねえよ!』ってな!」


 雪之丞は少しばかり長いスウェットの袖を各々の“たなごろ”にギューッと握り締めた。


「だったらさっさとワタシを抱きなよ!! 例え夫婦めおとになったってワタシャ座長だよ! 看板役者の華を散らすなんて事はしねえし、させねえよ! 先代だってそうだろっ?!」


 その言葉に染太郎は薄くため息を付き、ジャケットの内ポケットから分厚い銀行の封筒をゴゾッ!と取り出した。


「こいつぁ手切れ金だ」


「どういう事??!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る