牢獄を抜け出したら運命の剣士と恋に落ちました
藍瀬 七
第1話 牢獄から逃げたら、剣士に振り回される件
突然、耳をつんざくような警報音が鳴り響いた。その音と同時に、目の前のシャッターが閉まろうとしている。リトは必死に走った。
「まずい……出口が閉じられる!」
息を切らしながら、金属のシャッターが地面に到達する寸前、彼女は滑り込むようにくぐり抜けた。後ろを振り返ると、重いシャッターが地響きを立てて完全に閉じられる。間一髪だった。しかし、脱出はまだ終わりではなかった。廊下の奥から兵士たちの怒声が聞こえ、足音が迫ってくる。
「捕まるわけにはいかない……!」
リトは周囲を見渡し、無数の扉が並ぶ通路を駆け抜けた。道の先にあった通気口のカバーを発見し、手早く外して中へ滑り込む。狭い通気口を這い進むうち、背後で金属のカバーが乱暴に開けられる音が響いた。
「ここにもいないぞ!他を探せ!」
心臓が早鐘のように鳴る中、リトは息を殺し、ひたすら前進する。ようやく通気口の先に外の光が見えた――が、出口の下は崖だった。
「えっ、これ降りるの……?」
リトがためらう間にも、兵士たちが通気口へと近づいてくる足音が聞こえる。
「悩んでる暇なんてない!」
意を決して崖の淵に足を掛け、パイプを伝って慎重に降り始めた――その瞬間、握っていた金属が錆びて崩れた。
「きゃっ!」
リトの体が宙に浮く。下に見えるのは固い地面――と思ったそのとき、誰かの腕が彼女を抱き止めた。
「……全く、世話が焼けるな」
リトが見上げると、深い紫色の髪と青い瞳の男の姿がそこにあった。
「あなた……どうして?」
「話は後だ。ここを離れるぞ!」
リトは彼の腕に支えられながら、兵士たちの目を逃れて走り出した。ようやく建物の外へ出た二人。息を切らしながら広がる街を見て、リトは思わず呟いた。
「わぁ、賑わってるなあ」
と、思わず呟くほど、その街は商業が盛んなところだった。
「りんご美味しそ!いっただっきまーす」
甘くてジューシーなその味は、リトの心を癒した。
「お嬢ちゃん、お代を先に頂かないと、困っちまうな」
「え?」
リトは店主の言っている意味がわからなくて考え込んだ。
「お金は持っているんだろうな?さっさと払ってくれ」
怪訝な表情をする店主に向かって、リトは悪びれる様子もなく答える。
「え……お金? 持ってないけど……」
「払えないなら牢獄行きだ。おいお前、城の兵を呼んでこい」
♦♦♦
「ちょっとぉ!ここを開けてよ!」
大きな音をガンガン鳴らして、なんとか牢屋から出してもらおうとする。
「お前さん、タダ食いしたんじゃろ?金がないなら懲役5年の刑じゃ」
「5年!?そんなの無理!私にはやるべき事があるんだからあ!」
老兵は足早に仕事へ戻った様子だった。
「そんな……私、こんな所でじっとしてる場合じゃないのに……」
それから少しだけ気持ちが落ち込んだ後、どこかに抜け道があるかもしれないと探し始めた。その時だった。牢屋の廊下からコツコツと足音が聞こえる。音の鳴るほうを見ると、先程の老兵が倒れていた。廊下に倒れ込んだ老兵の手元には、まだ乾ききっていない水滴がついたコップが転がっていた。何事かと思い声を掛けようとすると、その瞬間に頭の上で声がした。
「ここから逃げたいんだろ?――俺の名前はグラック。ただの傭兵だ。こういう仕事、どうにもほっとけなくてな」
ハッと顔を上げると、男の顔があった。
「え?」
青い瞳で私の目を覗き込むその男は、真剣な眼差しで訴えかけてきた。突然の出来事で軽いパニックになりそうだったが、この男は私を牢獄から逃がそうとしてくれている、のか……?思考を巡らせている中、男は牢屋の鍵を外した。
「この道の途中に抜け道がある。そこから外へ逃げるんだ。いいな?」
男の言うことを信じていいものか少し迷ったが、自力で脱出することは難しいと思い、言うことを聞くことにした。
「ありがとう!私はリト。あなたの言うことを信じるから!」
笑顔で元気よく手を振り、その場を後にした。
「全く……あんなにはしゃぐと兵にすぐ見つかるじゃないか……」
牢獄を抜け出したら運命の剣士と恋に落ちました 藍瀬 七 @metalchoco23
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