第10章 ワールドデビュー

第46話 サブリミナル的な

 次の日、水曜日の午後、急遽集まることになった。集合場所はすっかり溜まり場になった私の家だ。

 どうやら、みんな歌詞を気に入ってくれたみたい。夜中のテンションで書いたから、今朝になって読み返したら、ちょっと恥ずかしかったけど、まあいいとしよう。

 次は作曲だから、ミッケに頼むしかなくて、わざわざ集まらなくてもいいかと思ったけど、何でも、直接会って話しがしたいとか。

 

「リル!凄いよ!作詞力はボクより上かもしれないな」

 登場早々にミッケから称賛される。ミッケとは作詞のセンスが違うからどうかなと思ったけど、気に入ってくれて安心した。実際歌う人が気に入らないと、気持ちが入らないもんね。

「遅い時間までお疲れ様!凄いイイよ、アタシちょっと感動しちゃったもんね。さすがリル先生だ!」

「コラ、チエ!先生は止めなさい!私はみんなが考えてくれた歌詞をまとめただけだよ」

「また謙遜して〜、半端に横文字が無いのもいいよな。あと、オレの考えも歌詞に入れてくれて嬉しいよ」

 カノンが笑顔を見せる。うん、喜んでもらえて良かった。

「タイトルもいいです『能力者(ボク)達の夏の過ごし方』。歌詞の中身もですけど、これって私達のことですよね?」

 モノがジッと私の顔を見つめる。

「うん、モノの言う通りだよ。自分達に置き換えて書いたところはある。もし、今年の夏、みんなと会わなかったら、どうだったろうとか考えたんだ。多分、一人で……孤独に過ごしていたと思う」

 そう、これは多くの人に向けた歌ではあるけど、自分達へ向けた歌でもある。

 最後の歌詞が1番では「ボク」だけど、2番で「ボクたち」に変わっているのは、私がみんなと出会えて、これからは一緒に歩いて行けたらという気持ちを密かに入れたんだ。


「あの、ところでさ……」

 ふとカノンが話しかける。

「歌詞がいいから言い出しにくかったんだけど『因果応報』って言葉が入ってないよね?もしかしてオレが後ろで『因果応報』ってずっと叫ぶとか?」

「本当だー!忘れてたよリル〜。そんなの台無しじゃーん!やっぱ抜けてるなリルはー」

 カノンの指摘に、チエが騒ぎ立てる。


「オォイ!上げたり下げたり忙しいな、ちゃんと考えてるよ!まずは順を追って説明しよう」

 私の事をみんなが期待した眼差しで注目する。

「カノンはね、まず、サビの『どこまでも澄んだ夜空に〜』のとこは、ミッケと一緒に歌うといいと思うんだ。それ以外は、後ろでリズム取りながら、言葉の合間に『uh〜』とか『oh yeah』とか言うのよ」

「何それ、ムズ!オレに出来るかな」

「まぁ、何となくね。それで、大サビの前に『流れる雲の切れ間から ヒカリのサインが

本当の気持ち キミには見せるから』っていう歌詞があるので、これも歌って欲しいんだけど、『サインが』と『本当』の間に『oh』って入れて欲しいのよ」

「ん?『サインが oh 本当の……』みたいな事?」

「そうそう、ちょっと何度か言ってみて」

 カノンは少し不満げだが、言われた通りに呟く。

「サインが オー 本当の……サインがオー本当……サインがオーほんと……サ インがオーほー、因果応報!?」

 カノンが驚いて勢いよく立ち上がり、膝をテーブルに打ちつける。

「ちょ、大丈夫?――そう、因果応報って歌詞に入れると馴染まなかったので、こんな感じにしてみたんだけど、どうかな?」

 それを聞いたチエが興奮して、私の両肩をガシッと掴む。

「リルー!やっぱスゲーよ!なんつーオシャレな事してくれてんだ!最高だよ!」

「オ、オシャレだった?喜んでもらえて良かったよ」

「そうです、凄いです!さすがリル先生です」

「モノまで、先生はやめなさいって!」

「いや、これは超上級テクニカルだね、ボクもシャッポを脱いだよ!」

「シャッポって古いな!おじいちゃんでも使わないぞ」


 何はともあれ、歌詞はこれで完成だけど、問題は次だ。

「で、こんな感じで歌詞ができたんだけど、これに上手く曲付けれるかな?」

 私は横で浮かれているミッケに尋ねる。

「うん、任せて、既にインスピレーションが湧きまくっているよ!」

 ミッケは笑顔で親指を立てる。う〜ん、信じていいのかな?

「曲ってどれぐらいで出来るのかな?やっぱり何日か、かかるよね?」


 私の言葉を受けて、膝を擦りながらカノンが

口を開く。

「今日が8月7日だからな、隕石が落ちる日まで、あと12日か。曲作って、録画して、配信してで、沢山の人に見てもらわないとだろ。いくら因果応報の効果があったとしても、すぐに隕石の軌道が変わるとは思えない。せめて一週間位欲しくない?」

 カノンの言う通りだ、激突する寸前じゃ遅いだろう。

 それを聞いたミッケが胸を張って答える。

「インスピレーションが湧いてるって言ったじゃないか。うん、今日中に出来るよ」

「本当にー?ミッケー!やっぱ天才だね!」

 チエは、はしゃいでいるが、私はちょっと心配だ。

「大丈夫ミッケ?あまり無理しないでね」

「大丈夫だって、実は自分で歌詞を書いたときから曲もイメージしてたんだよね。ボクの歌詞とほとんど同じだから、ほぼ出来てるようなもんだよ。よし、明日撮影しよう!善は急げさ」

「明日撮影!?ミッケが問題無いならいいけど……」

 いきなりだけど、早いに越したことはない。ミッケの歌詞とほとんど同じというのは納得出来ないけど、ここはミッケを信じよう。

「えーと、それじゃあ、場所はどこがいいかな?」

「場所はさ、ボクがいつも路上で歌ってる池葉原の公園でどうかな?」

「あっ、ミッケと初めて会った公園だね。あれからも、あそこで歌ってるんだ?」

「ハハハ、実はたまに歌ってるんだよね、あまり人は集まらないけど」

 あそこは景色もいいし良さそうだ。しかし、たまに歌ってるとは知らなかったな。言ってくれれば、見に行ったのに。でも、聴いてると、こっちが恥ずかしくなるから、微妙なとこだな。

「ちょっと待てよ、そんな外でやるんだな。オレ派手なメイクでやるつもりなんだけど」

 そうだ、カノンは身バレしないように化粧する予定だった。

「じゃあ、出来るだけ人がいない時がいいな。始発の電車で行かないか?」

「撮影の時も人がいない方がいいから、それはいいよ。始発だと5時過ぎぐらいだと思うけど、メイクしてくるとなると、かなり早起きしないとだね」

「あぁ、それはしょうが無い。1日ぐらい構わないよ、気合い入れていくぜ」

 

 そんなわけで、急遽、明日は池葉原行き始発の先頭車両にみんなで乗りこんで行くことになった。

 なお、ビデオカメラはモノの家にあるものを使わせてもらう事になった。その上、モノは編集及び、YouTubeチャンネルの開設も出来るというのでお願いすることにした。

 これも結構な労力だけど、モノは「役に立てるのが嬉しい」と快く引き受けてくれた。

 その辺りの知見があるのがモノだけだったので、本当に助かった。 

 ミッケはギターを触りたくてウズウズしている。実際作曲してもらわないといけないので、今日はこれで解散となった。明日は早いしね。

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