第45話 完成

 次の日、火曜日の午後、モノとカノンから歌詞が届く。短いけど、一生懸命考えてくれたのがわかる。そして、二人共似たような想いを歌詞にしている。内容を要約すると、


 過去の自分より成長していきたい。

 他人と比べるのは意味が無い。

 個性を大切にしたい。

……みたいな事だ。

 

 うん、これは共感できる、私も正しいと思う。二人共悩みながら、こんな答えを導き出したんだろうな。確かに、カノンなんて思いっきり個性的だし、他人に媚びないしね。

 モノも見た目には分からないけど、カノンと同じ様な想いを内に秘めているんだね。

 私は机に向かい、作詞の準備に取り掛かる。


 夜10時。歌詞を考えてると、あっという間に時間が過ぎた。モノとカノンの想いも組み入れて、少し形になってきた時、やっとチエからLINEが届く。

えー、何々……言い訳長いわ。そんな事より歌詞は……これか!


『今年も暑い夏が来た でも今年の夏は何かが違う 

 窓の外 太陽が輝く いつもと違う光が見える Yes summer』


 うん、チエにしては良く頑張ったよ。最後の「Yes summer」は余計だけど、今年の夏は特別だなって気持ちは、私も同じだ。

 何とか歌詞にねじ込んでみせよう……!


 みんなの想いを受けて、心の中に何かが湧き上がってくるのを感じる。私は一人机に向かい、ペンを握り思考を巡らせる。狭い部屋の中にいるけど、頭の中は無限の宇宙のようだ。

 もう12時を回っただろうか。エアコンの稼働音だけが聴こえる。眠くないし、神経はますます研ぎ澄まされる。

 創作って夜中に行うと進むのかもしれない。違う自分、いや、本当の自分と向き合う感じだ。


 夜中の2時、やっと歌詞が完成した。みんなの想いを1つにまとめた歌詞だ。

 みんなの良いところを取り入れたので、結局、2番まで作ってしまった。

 基本的にはミッケの歌詞の流れだ。フザケたような歌詞だけど、読み解くと良い事言ってるんだよね。さすがにトラックにナビが付いててーとかいうのは、理解不能だったので無視したけど。

 完成した歌詞は、もちろんプロの作詞に比べたら稚拙なものだろうけど、今の自分に出来る限りのものを出し切ったし、嘘偽りのない想いを形にしたものだ。みんなは気に入ってくれるだろうか……。



『何にも無い 何にも無い この街で

空っぽの 心のまま ボクは生きている

寂しく無い 寂しく無いさ 決して

誰だって 悲しみを抱えて 歩いてる

躓いて 転んだから見える 景色がある

目の前に 小さな花が ほらキレイだね


どこまでも澄んだ夜空に いくつもの星が流れる

まるでボクの未来を 祝福してるみたいさ

少しずつでもいいんだ いつか辿り着く日まで

ボクはこの足で 歩いて行くのだから



同じ時間 同じ季節 繰り返す

昨日と 今日のボクは 何か変われたかな

窓の外 太陽が今日も 輝いてる

夏の光が いつもと違って 見えて来る

誰かと 比べるなんて 意味無いよ

誰だって 特別な能力ちから持っている


流れる雲の切れ間から ヒカリのサインが

本当の気持ち キミには見せるから


どこまでも澄んだ夜空に いくつもの星が流れる

まるでボクの未来を 祝福してるみたいさ

少しずつでもいいんだ いつか辿り着く日まで

ボク達はここで 歩いて行くのだから』



 ついでに曲のタイトルも考えたんだ。タイトルは『能力者ボク達の夏の過ごし方』

 

 みんなはどう思うだろう?気に入ってくれるといいな。

 私は出来上がったばかりの歌詞をみんなに送信すると、ベッドに倒れ込んだ。

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