第44話 リルの作詞
「そういえばさー、リル見せてないじゃん。あんな偉そうに言ってたんだから、いいの出来てんだろうね〜」
空気を変えるようにチエが「バンッ」とテーブルを叩く。
「あっ、あー、私ね……あんまり自信無いけど見る?」
チエが当たり前だみたいな顔で頷く。私は机の引き出しからくたびれたノートを取り出して見せる。
『何にも無い 何にも無い この街で
空っぽの 心のまま ボクは生きている
寂しく無い 寂しく無いさ 決して
誰だって 悲しみを抱えて 歩いてる』
4人とも真剣に私の書いた歌詞を見ている。
「ちょっと出だしの部分だけなんだけどね……ど、どうかな?」
私の言葉にチエが反応する。
「いい、いいよ!リルがこんな感じの歌詞を書くなんて意外だな」
「オレも悪くないと思う。いや、むしろ好きかもしれない」
「私もです。何か切ない感じがキュンときます。ミッケはどうですか?」
モノに振られて黙っていたミッケが答える。
「うん、確かに、こういう方向性の歌詞も悪くないね、それに言葉を繰り返してるところがテクニカルだな、口ずさみたくなる」
いや〜、恥ずかしいけど、みんな良い感触を持ってくれたみたいだな。特に実際歌うミッケの反応も良くてホッとしたよ。
「リルに作詞の才能があるなんて知らなかったよ。漫画の知識のお陰かねぇ」とチエが冷やかす。
「うん、それもあるかもしれないけど、もし自分がチエやみんなに会わなかったら、どうだったろうとか考えて作ったんだ」
私の話を聞き、モノがハッとして顔を上げる。
「私も今まで寂しい気持ちで生活していました。あの時、声をかけてくれなかったら、そのままでした。自分に置き換えて歌詞を書くと心のこもった歌詞を書けるんですね」
モノが尊敬の眼差しを向ける。いやいや、たまたまなんだけどね。
「リルこれ使えるんじゃない?でも、続きが気になるね」
チエの言うことはもっともだ。でも、ここまでしか考えつかなかった。
ミッケとか中身はともかく、最後まで完成させてて凄いな。……でも、よく読み解くと良い事書いてそうなんだよな。
「ちょっと、もう一度ミッケの歌詞見せてもらってもいい?」
「ボクの『心の宅配便』の歌詞かい?いくらでも見てよ」
そんなタイトルだったんだ。その事はスルーして、ノートを広げて歌詞を見直す。
「ここの……
『躓いて荷物落として 弁償する時もある 届ける家が見つからなくて 迷子になる時も でも鉢植えに綺麗な花を見つけたよ』
ってとこ、確かこの前のカラオケの時も言ってたよね、失敗したり、遠回りしたからこそ出会えたものがあるってことだよね」
「そうそう、その通りだよリル!」
ミッケの顔がパッと明るくなる。隣でカノンが「そういう事か」と呟いている。
「ここを例えば……
『躓いて 転んだから見える 景色がある
目の前に 小さな花が キレイだね〜』
とか、どうだろう」
私の即興の歌詞にみんなが驚く。
「いいじゃん、いいじゃんリル〜!他は、他は?」
チエが興奮して催促する。
「あとは……サビと思われるとこの、
『澄んだ夜空に シューティングスター
目的地はフューチャー みんな応援してるよ』とかは、
『どこまでも澄んだ夜空に いくつもの星が流れる まるでボクの未来を 祝福してるみたいさ』とかかなぁ」
チエがテーブルに「バンッ」と両手をついて立ち上がり、危うくコップが倒れそうになる。
「いーじゃん!凄いよ!全部できちゃうんじゃない!」
「ちょ、ちょっと興奮し過ぎでしょ。参考があると作りやすいよね」
「うん、作詞はリルに任せてもいいかもな」
カノンも感心しているみたいだ。
う〜ん、こうなるとは思わなかったなぁ、だけど、みんなの作ってきた歌詞を客観的に見ると、私が引き受けるのは、やむを得ないのかな。でも、ちょっと引っ掛かている事がある。
「あのー、この曲はみんなで作りたいと思ってるんだ。だから、出来れば少しずつでも、みんなの歌詞を盛り込みたいと思うんだよ」
私の言葉に「そうしたいんだけど、アタシに書けるかな〜」とチエが弱音を吐く。
「さっきリルが言っていたように、自分に置き換えてみると、言葉が出てくるかもしれません。普段思っている事とかでもいいんじゃないでしょうか?」
モノがそう言うと、カノンも頷きながら
「そうだな、自分の想いを何となく書けば、リルがカッコよく歌詞に変換してくれるだろう」と言う。
何だその、信頼感は!急に出来て当たり前のような立場になってしまった。
「いやぁ、カッコよく出来る保証は無いけど……うん、やるだけやってみるよ!」
という事で、ミッケの歌詞を写真に撮り、チエ、モノ、カノンの3人は、明日までに改めて考えた歌詞を、私に連絡するという約束をして、その日は解散となった。
しかし、思わぬ大役を任されてしまったな。う〜ん、どうなることやら。
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