第9章 みんなの想い

第43話 作詞大会

 日曜日、朝食を食べた後、すぐ部屋にこもり歌詞を考えようとするが、なかなか思いつかない。どこから手を付ければいいのか分からないのだ。

 好きな曲とか聴いて参考にしようか?あまり参考にしすぎるとパクリになりそうだしな。出来れば自分の言葉で作りたい。

 ちょっと休憩と思い、スマホを弄っているとあっという間に昼だ。

 母親が用意してくれた昼食のラーメンを食べながら両親と取り留めのない話をする。

 両親とも漫画やゲームが好きなので、私の趣味に寛容なのは有り難い。私の漫画好きは元々親からの影響なんだろうけど、今では遥かに凌駕してしまったのだ。

 午後から買い物に行くらしいので、仕方無く付き合う。何か作詞のヒントになる事でもあるかなと思ったけど、何も無かった。

 風呂や夕食をこなしてダラダラとスマホをイジっていると、もう10時だ。私は少し早いけど、お休みを言って部屋に閉じこもった。

 

 ヤバイ、少しも書けてない。自分から作詞してこようと言っておいてゼロは無いよね。

 ちょっと、歌詞のテーマをもう一度考え直してみよう。

 そう、本人は悪くないのに、運悪く、イジメられたり、不幸にあったりで苦しんでいる人達。それでも負けずに頑張ってる人達に聴いてもらう曲を作るんだ。

 うん、一歩間違えば、私だってそうだったかもしれない。チエに出会わなければ、孤独で虚しい毎日を送っていたかも。

 私はifの自分自身を想像して作詞してみた。

 

『何にも無い 何にも無い この街で

空っぽの 心のまま ボクは生きている

寂しく無い 寂しく無いさ 決して

誰だって 悲しみを抱えて 歩いてる』


 ちょっと恥ずかしいけど、歌詞ってこんな感じじゃないかな。我ながら悪くないと思うんだけど、どうだろう?この後、でも頑張ろうみたいに繋がっていく予定。

 因みに、一人称がボクっていう歌詞が好きなんだな。ちょっと、そこだけミッケと被るのが何だけど。なお、二人称はキミね。


 時計を見ると、もう午前1時だ。これだけ形にするだけで、数時間かかってしまった。

う〜ん、今日はここまでにしよう。みんなはどんな詞を書いてくるだろう。


 そして月曜日、午前中にコンビニに行き、少年ジャンピングと昼食の弁当、そして集まった時用の予備のお菓子を買う。

 しかし、今日は暑いな。夏休みになってから、あまり外出してないので、余計に暑さが堪える。

 それにしても、今日が8月5日でしょ、隕石が落ちる日まで、あと2週間しかないんだよね。ちゃんと曲を完成させないとな。


 午後、続々とみんなが集まる。

 相変わらずミッケはギターを背負っている。暑い中ご苦労なことだ。


「さて、みんな書いてきた?」

「ま、まあ少しだけ……」

 テーブルを囲み、各々がお互いの顔を見て牽制し合う。ミッケだけは余裕そうだ。

「それじゃあ、チエから見てみようか」

「えー!またアタシから?でも、まあまあ上手く出来たかも」

 チエはみんなの疑いの視線も意に介さず、持参したノートを開く。普段授業で使っている英語のノートの最後のページに書いてきたようだ。

 おいおい、そんなトコに書いてまったく。まぁ、それはいいとして、何々……。


『辛かった日も 泣き明かした夜もあった

でもくじけない君が好きさ with you

信じれば夢は必ず叶うよ Dream

誰かが見ているよ 負けないで Believe

因果応報 君のために for you…』


 因果応報ねじ込んだな。それは別にしても、う〜ん、なんか薄っぺらいな〜。大事な曲だからね、ここはチエにはすまないがハッキリ言わないとな……。


「え~と、私の感想としては……申し訳ないけど、何か聞いたことあるような歌詞だし、綺麗事だしー、特に唐突に中学生レベルの英語で締めてるのが駄目だと思う」

「うぉ!?ズバッと言われた〜!でも、そう言われるとそうかも……出直してきます」

 チエは私の率直な物言いに、少し驚いたようだけど、納得してくれたようだ。スマン、チエ。


「じゃ、じゃあ、次はオレの見てくれよ。ちょっと尖りすぎたかもしれない」

 そう言ってカノンがポケットから折り畳んだ紙を取り出し広げる。どうやらチラシの裏に歌詞を書いてきたようだ。チエの言われようを見て、早く自分の番を消化したいようにみえる。え~と……。


『迫ってくる運命ディスティニー 蘇る悪夢ナイトメア

恐れるな危険地帯デンジャラスゾーン 立ち向かえ正義ジャスティス

迷宮ラビリンスで因果応報……』


 こ、これは……ハードロックやヘビメタなら、もしかして合うかもしれないけど、私の考える方向性とは違うかな。因果応報の歌詞は馴染んでるけど。

 カノンは普段、こんな感じの歌詞の曲を聴いているのかもしれないな。


「え、え~と、確かにちょっと個性的すぎるかな。聴く人が限定されそうだし、ミッケには合わないと思う」

「そうか、そうだな。うん、出直すよ」

 カノンは恥ずかしそうに、そそくさと紙をポケットに押し込める。


「次は……モノ、書いてきた?」

 私のフリにモノがビクッとする。

「エッ!私?……えぇ、一応書いてきました。書いてきたんですけど、才能無いみたいで自信ありません。見るだけ時間の無駄だと思います……」

 またまた、謙遜して。この中で歌詞のセンスがありそうなのはモノぐらいかなと、ちょっと期待している。

「いやぁ、折角書いたのなら、良かったら見せてよ」

「……では、ちょっとだけ、笑わないでくださいね」

 モノは渋々カバンからノートを取り出す。

 ノートの一枚目に書いてある。このために新しいノートをおろしたようだ。所々消して書き直した跡がみえる。

 で、歌詞の方は……。


『隕石が落ちてくる もう逃げられない

私達の力でGO ミラクルパワーでやっつけろ 寂しくなんか無い Yes因果応報 

みんなの願いが1つになって 地球の平和を守るんだ……』


 な、なるほど、見せたくないわけだ。隕石が落ちてくるって、事実を歌詞にするのは斬新だし、Yes因果応報って凄いな。しかし、なんかヒーロー物っぽい歌詞だぞ。

 私が喋ろうとするとモノが口を挟む。

「あー、いいです。言わなくても分かります。なかなか歌詞が出てこなくて、子供の頃に見た魔法少女のアニメをイメージして書いたのですが、不正解ですよね?分かってます、出直してきます」

 子供の頃のアニメか。モノの新しい一面が見れたのは良かったよ。


「みんな作詞は初めてだもんね、仕方無いさ。もうボクのを見せちゃおうかなー」

 横にいるミッケが、待ち切れないというようにノートを取り出す。表紙には「作詞ノートNo.3」と書いてある。

 何だか長文だぞ。もしかして最後まで完成しているのか?嫌な予感しかしないけど、歌詞を確認する。


『ボク達は生まれたんだ この地球に

大事なものを運ぶ 心の宅配便だよ

躓いて荷物落として 弁償する時もある

届ける家が見つからなくて 迷子になる時も

でも鉢植えに綺麗な花を見つけたよ


そしてトラックに戻ろう 歩くより速いよ

最近はナビも付いてるんだぜ キミも知ってるかもしれないけど 


澄んだ夜空に シューティングスター 

目的地はフューチャー みんな応援してるよ

つかめよ あと2センチ いや1センチ

足は歩くためにあるんだから 少しずつでも歩こう 健康にもモアベター 

だって因果応報』


 いつものミッケの歌詞キター!何となく言いたい事は分かる気がするけど、これはな〜。

「あ〜、あのー、ミッケは比喩とか好きだよね、でも、私としては、ちょっと伝わりづらいかな〜って思うんだよね」

「そうかい?テクニカルすぎるかなぁ?」

「テクニカルというか……」

 私が返答に困っているとカノンが身を乗り出す。

「ハッキリ言うとな、ダサいんだよ」

 本当にハッキリ言ったー!カノンは驚く一同を尻目に話を続ける。

「ミッケが今までオレにかけてくれた言葉とかは、本当に感動したんだ。普通でいいんだよ、目の前に助けたい人がいると思って書けばいいんじゃないかな」

 そうだ、カノンの言う通りだ。普段は良い事言うのに。ミッケは言葉の力はあるはずなんだ。

「う〜ん、一理あると思うけどね、歌詞だからなー」

 ミッケにはミッケのこだわりがあるようだ。ちょっと不穏な空気になってしまった。

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