第42話 妙案
そして土曜日の夜、ミッケから連絡があり、急遽、ビデオ通話で話す事になった。
時間がある人は繋いで欲しいという事だったが、みんな気になっていたようで、欠席する人はいなかった。
次々とみんなの顔が映る。みんな自分の部屋から通話してるのかな?それぞれの生活が垣間見れて面白いね。モノは後ろに観葉植物が見える。随分いい家に住んでそうだな。キャラと違いミッケの後ろには、ふすまが見える。和風だ。そんなミッケからの第一声。
「結論から言おう、効果アリだ!」
ミッケのテンションが高い。よっぽど良い結果が出たのだろう。
「やったじゃん!弟君どうなったの?」
チエが話しかける。しかし、チエの画像粗いな、通信品質が良くないんじゃないの?
「聞いた所によると、ミルトの同級生が顧問の先生に相談してくれてたらしいんだ。先生も普段から気にしてくれてたみたいでね。それで今日、試合前に例の2年生数人が控室でミルトのユニフォームを隠そうとしてた所を見つけたんだって。現場を押さえたんだから、言い逃れも出来ないよね。で、その2年生数人は退部になるみたいなんだ」
「ほぉ~、まさに、因果応報だな」
カノンも感心している。自分の能力なのにね。
「カノンありがとう。これでミルトも安心して好きなサッカーに打ち込めるよ。本当にありがとう」
「いや、日頃の行いの結果に過ぎないよ。その話だと、遅かれ早かれ同じ結果になっただろうけどな」
「でも、長引いてたら、ミルトの気持ちが持たなかっただろうから、すぐに結果が出るって事は凄いことだよ」
確かにそうだ、やっぱりカノンの能力は特別だ。
「これで決まりだね、隕石の衝突を防ぐ為にYouTubeで配信だね。名前はカノンチャンネルかな、それとも因果応報チャンネルかな?」
「ちょっと待てミッケ!安易なネーミング止めろ!つーか、その前にまだYouTubeなんかに出るなんて言ってねえぞ」
「往生際が悪いなぁ、カノン。それしか方法無いんだから」とチエが煽る。チエはカノンの反応を楽しんでるみたいだ。
「いや、そうかもしれないけど……クソッ」
まぁ、全世界への配信だからね、かなりの覚悟は必要だよなぁ。
「あ、あのー、恥ずかしいのでしたら、カノンと分からないようなメイクとかするのはどうでしょうか?」
さすがモノ!いつも冷静に状況判断してくれるな。
「う〜ん、確かに、オレだって分からなければ構わない。メイクとかビジュアル系バンドみたいにって事かな?悪くないかも」
カノンが乗ってきたぞ。素顔が分からない位のバンドもいるもんね。バンド好きのカノンらしいや。
そこにチエが口を出す。
「でだよ、前も言ったけど問題は中身だよ。『いんがおーほー』とか歌っても、誰も見ないよね」
みんなが考え込む仕草を見せる中、私はそのフリを待っていた。
「あのさ、実は私、既に考えがあるんだ」
「エッ、本当にリル?」
みんなが一様に驚きの声を上げる。
「再生数が稼げる動画――ミッケが歌えばいいんだよ!ミッケの美声は素人の域を超えてるよ。それでベイベックスターオーディションの最終審査まで残ったーとか記載すれば、興味持ってくれると思うんだ」
「エーッ!ボクが歌うの?」
「あのー、リルはアホなの?ミッケが因果応報言っても意味ないでしょ」
チエから冷めたツッコミが入る。通信品質が悪いせいで、画面はアホと言った顔で止まっている。憎たらしさ倍増だ。
「オォィ!話はまだ途中だよ!カノンはさ、コーラスっていうか、サブボーカルで入るんだよ。歌詞の中で『因果応報』をねじ込むのさ!」
「ボクとカノンか……カラオケの時も一緒に歌っていい感じだったしね」
「オォ、オレはオッケーだよ、サブに回った方が目立たなくていい」
「いいと思います!リル冴えてますね!」
良かった、モノからお墨付きをもらえると安心する。ミッケもカノンもやってくれそうだ。
「これはさ、結果的にミッケのデビューも兼ねてるようなもんだと思うんだ。再生数を稼ぐって事は世間に知れ渡るって事だからね」
「そうだね、今の時代YouTubeから有名になるのも珍しくないもんね。ヤバイ!世間にミッケが見つかってしまう!」
チエが不必要に興奮している。何か激しく動いているが、画面がコマ送りの様にカクカクしている。
「エッ!そうなる?そうなるかー!ボクがデビューかー!?よ〜し、気合い入れて曲作るからね!」
ミッケも状況が分かってきたようで、目が輝いている。でも、問題はここからなんだ。
「あの〜、曲なんだけど、作曲はミッケにお願いしたいけど、作詞は……みんなの共作でどうかな?」
「共作!?」
またもや、みんなが一斉に声を上げる。ミッケの作詞は個性的過ぎるので回避したい。ここはみんなで力を出し合ったらどうだろう。この中に誰か作詞センスのある人がいるかもしれないし。
「へぇ〜共作?面白いかもね。アタシの才能開花しちゃうかも〜」
チエにはあまり期待してないんだけどね。でも、誰が作詞の才能あるか分からないしね。
「リルさー、共作はいいけどよー、どうやって作ってくんだ?オレ作詞したことなんて無いぜ」
カノンの言う事はもっともだ、私も作詞したことは無い。
「ミッケはさー、作詞とかどうやってやんの?曲と詞とどっちが先なの?」
チエが質問する。
「ボクの場合はね、同時かな〜?ギターで曲を弾いてると、勝手に頭の中に歌詞が湧いてくるんだよね」
天才かよ!?何の参考にもならない。ミッケは変なところでカッコつけるトコがあるな。それも微笑ましいんだけど。
「じゃあさ、詞があったら、それに曲をつけれる?」
「あぁ、いけると思うよ。みんなが紡いだ詞を白い鳩に乗せて、世界に解き放ってみせるよ!」
「あ、あぁ、お願いするよ……」
チエだけキャーキャー言っている。音声が途切れ途切れで非常に煩わしい。しかし、歌詞の方向性だけでも意思統一しないとだよな。
「改めて言うけど、今まで報われなかった人達にカノンの能力でマイナスを取り返させるのが目的。だから、そんな人達に聴いてもらう為の曲を作りたいんだ。聴くと元気が出るとか、勇気が湧いてくるみたいな?それが歌詞の方向性って事だね」
みんな、なるほどという感じで頷いている。
「あぁ、あと途中で『因果応報』って、入れないとだね」
「うわ、一気に難易度上がったな」
「確かに難しいですね」
だよね、自分でもそう思う。
「え〜、どんな流れでそんな単語使うかねぇー、もっとオシャレな単語だったら良かったのに〜」
「何だよチエはオレの因果応報にケチつけてー、オシャレってなんだ?」
「え〜、例えば……エスプレッソとか」
言うほどオシャレか?やはりチエのセンスには期待できない。でも、カノンが「エスプレッソ!」と叫ぶ姿を想像して、ニヤけてしまった。
「やっぱり、流石のボクでも直ぐには出て来ないな。じっくり考えたいので、少し時間をくれないかな」
「そうですね、出来るかわかりませんが私も頑張ってみます」
みんな、前向きに考えてはくれそうだ。
「それじゃあ、みんなさー、取りあえずワンフレーズだけでもいいから、作詞してこようよ。時間も無いんで、明日1日考えて、明後日の月曜にまた私の家に集まろうよ!」
みんなは力強く、OKだとか、任せとけだとか言って通話を切った。みんな頼りになるなぁ。私も明日は時間をかけて考えてみよう。
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